「グリーンIT」なる言葉がそこかしこで聞かれるようになった。地球温暖化への関心がIT分野でも高まっていることが背景にある。二酸化炭素(CO2)の排出量が年々増えるITだが、ITの「使い方しだい」で地球温暖化の防止にいろいろなカタチで貢献できる。
トラフィック量増え、2025年には「情報爆発」が起こる
ITは地球温暖化をとめられるか?
IT技術の利用は爆発的に増え、それに伴って使用するエネルギー量も拡大。地球環境保護の面から問題になっていたため、負荷軽減を目指す取り組みが近年盛んになっている。
経済産業省のグリーンIT推進協議会によると、ITによる地球温暖化の影響を消費電力でみた場合、2006年に約500億キロワット時だったものが2015年には2.1倍に、2025年には5.2倍に膨れ上がると試算している。それによると、ITの「負」の影響はトラフィック量に比例しており、2006年から2025年にトラフィック量は約190倍増えると見込んでいる。野村総合研究所(NRI)は今後さらにデータの蓄積が進むことや動画データが増えることで、放っておくと2025年にも「情報爆発が起こる」と指摘する。
こうした中で、地球温暖化防止にITができること、すなわち「グリーンIT」の推進が声高に叫ばれるようになってきた。
「グリーンIT」には「Green of IT」と「Green by IT」の2通りの考え方がある。「Green of IT」はIT機器そのものの「ハード」の部分で省エネ技術を開発・導入してCO2排出量を削減する方法をいい、「Green by IT」はITを利用する産業活動のなかで、ビジネスモデル改革や事業の効率化で「省エネ」を実現する方法をいう。
なかでも、「Green by IT」には大きな期待が寄せられている。たとえば、デパートへ買い物に出かけるためにクルマを出すことになれば、そこでCO2を排出する。ただ、ITを使ったネットショッピングであれば、その分のCO2排出量は発生しない。また、ネットオークションを活用すれば、不用なものを「リユース」し、使いまわすことで有効活用できる。
ITを使ったビジネスモデル改革、業務改善が進む
このように、ITを活用して「モノ」の動きをなくしたり、少なくしたりすればCO2を削減できる。セブン-イレブン・ジャパンの共同配送の例では、1974年に1日1店舗あたり70台の配送車を要していたのが、2005年にはこれが8.9台にまでに減った。なにが、どのくらい、どの店舗で売れているかなど、ITによる商品管理を徹底する一方で、商品ごとに共同配送センターを設けて在庫の「省エネ」管理を行い、CO2を削減している。
NRIの椎野孝雄理事は、「いまではめずらしくなくなった共同配送だが、はじめた時は配送ルートや時間の問題など、いろいろあったが業界の協力とITの力があってここまでやってきた」と話す。
Amazonに代表される書籍の「流通革命」もITが大きな役割を果たした。返品率を比べると、ネット書店のほうが町の書店より約4%少ない。ダウンロードサービスも普及もCO2削減に貢献する。音楽配信市場は、05年に69億円とCD市場の2%にも満たないが、CD売り上げは年々減少し、ダウンロード販売が伸びていることは確かだ。NRIは2012年にはダウンロード販売が880億円になると予測。CDという「モノ」がいらなくなって、製造や配送、在庫管理にかかるコストがなくなるからだ。
ITは「勤め方」や「仕事のやり方」も変え、それによるCO2削減効果もある。事務所や店舗をなくすことで在宅勤務(テレワーク)が可能になるし、テレビ会議によって「ヒト」の移動にかかるコストが省ける。ある建設会社の例では、建設現場(作業所)と本社をインターネットで繋ぎ、資材の調達や就労管理などに役立てている。
ユーザーがネットワーク経由で活用するSaaSや仮想化の技術がワークスタイルに変化をもたらすともいわれ、「グリーンIT」はインターネット上でも話題になって取り上げられている。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調べでは、重点的なIT投資の分野として、多くの企業が生産・在庫管理システムや営業販売業務をあげている。さらにはITを、防犯上の活用や遠隔医療などの利用を増やしていくことで、地球温暖化防止に貢献したいというわけだ。
6月9日から開催されるアジア最大級のネットワークイベント「Interop Tokyo」でも、今年はグリーンITを主要テーマの1つに掲げており、業界の注目度の高さが伺える。同イベントでは、日立やNTTデータなどの最先端の取り組みを紹介する企画が予定されている。