世界中で原子力発電所の建設ラッシュが巻き起ころうとしている。米国エネルギー省の原子力担当者が2050年に米国の温暖化効果ガスの排出量を削減するためには電力需要全体における原子力の割合を現状の20~30%まで引き上げる必要があるとの認識を明らかにしたほか、欧州では英国やイタリアで「原発回帰論」が台頭している。地球温暖化の防止策に有効であることや、火力発電に必要な原油価格の高騰が「追い風」になっている。
世界の電力、原子力はわずか5.8%
温暖化対策で、世界中が「原発」に注目している
電気事業連合会の調べでは、世界全体のエネルギー消費量は年間約109億トン(石油換算)に達し、消費量は多い順に米国、中国、ロシア、日本、インドと並んでいる。
世界で最も多く使われているエネルギーは石油で、全体の35.8%を占める。石炭(28.4%)、天然ガス(23.7%)、水力(6.3%)に次ぐのが原子力で、全体の5.8%にすぎない(2006年)。
日本のエネルギー消費量は年間約5億トン。このうち、石油が45.2%を占め、次いで石炭(22.9%)、天然ガス(14.6%)、そして原子力の13.2%だ。日本で「原子力」というと、安全性の不安が話題になりがちだが、13.2%という割合は米国を上回る。米国の原子力発電の割合は現在8.1%。先の原子力担当者の発言はこれを約20~30%まで引き上げるというわけだ。
エネルギー消費量で世界第2位の中国、第5位のインドは石炭が主力で、ロシアは天然ガスの依存度が高いが、原子力の割合はロシアで5%、中国とインドは1%にも満たない。世界的に原発が広がる余地はまだまだ大きい。
ちなみに「原子力大国」といわれるフランスは、年間約2億6000万トンのエネルギー消費量のうち、38.9%を原子力が占めている。
原子力が注目されるのは、CO2排出量を抑える手段として「有効」だからだ。さらに、火力発電に必要な原油価格が高騰し続けていることが拍車をかけた。たとえば、日本では現在55基の原子炉を稼働しているが、仮に過去最高の84.2%の利用率で運転した場合、2006年度(実績は69.9%の稼働)では約3900万トンのCO2を抑制できたとの試算があり、「クリーン電力」の切り札的な存在になっている。
もっとも、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所が2007年7月の中越沖地震の影響で稼働停止となるなど、安全面での不信感が解消されず、新たな原発計画は進んでいない。