「学の独立」を掲げる早稲田大学が揺れている。中国の胡錦濤国家主席が同大で講演した時には、肝心の早大生には事前告知がなかったことが問題化したほか、入学式でキャンパス内で抗議活動を行った学生が逮捕されたことも発覚。「『言論の府』である大学が、『言論の自由』を踏みにじっている」といった批判も相次いでいる。
早大生に事前告知されず
胡錦濤主席の講演会への対応が問題化した
批判が噴出したのは、08年5月8日、中国の胡錦濤国家主席が同大学キャンパス内で講演した時の大学の対応をめぐってだ。講演を聞くことができたのは、事前に招待された約800名。
肝心の早大生に事前告知がされることはなく、講演当日の早朝に学内ポータルサイトに告知文が掲載され、大半の学生は、この告知文で講演会の存在を知ることになった。
当日、キャンパス内に居合わせた早大生に話を聞いてみると、講演会場に近い門4箇所が封鎖され、講演会とはまったく関係のないはずの学生が、授業に向かうまでに余計な時間がかかったほか、授業に使う教室が急きょ変更になるなどの影響があったという。
また、胡錦濤主席と、卓球の福原愛選手がラリーを披露した会場は、学内の学食だったのだが、この学生は
「学食が前日から封鎖されていて、不便でした」
とこぼす。
さらに、今回異例だったのは、学内に、警察官によるバリケードが築かれていたことだ。講演会場の外では、中国支持派とチベット支持派が入り乱れ、小競り合いが発生する一幕も見られたことから、これを押さえるための措置の一環とみられる。大学では自治を重んじるとされていることから、学生からは
「『官憲は大学構内に入れてはならない』というのが、『常識』だったはずなんですけどねー」
との声も聞こえてくる。
教員組合が「胡主席講演の対応には問題がある」との見解を発表
早稲田大学の敷地内では小競り合いも起きた
それ以外にも、教員組合が、今回の対応には問題があるとの見解を発表している。水島朝穂・法学学術院教授も、対応に批判的な教員のひとりで、ウェブ日記に講演会当日の様子を、写真入りで詳しく紹介している。その中で、大学側の見解も、わずかではあるが明らかになっている。それによると、同教授は5月14日、学外の会議で白井克彦総長に直接質問する機会があり、白井総長は「学外者もおり、早稲田を守るためには必要だった」などと答えたという。
「警察力」が問題となっているケースは、まだある。04年4月1日に行われた入学式では、会場前でサークル勧誘活動規制に抗議する同大法学部の男子学生(22)が大学職員に寄り押さえられ、警視庁牛込署に建造物侵入の現行犯で逮捕された。男子学生は、3日間の拘置の後、不起訴処分となり釈放された。
教員や学生ら有志は、5月22日に記者会見を開いて抗議声明を発表。声明では
「今回の出来事は、『言論の府』である大学が、このような憲法で保障されている権利すら踏みにじった事態」
などと大学側を非難し、謝罪と賠償を求めている。すでに今回の事件の経緯をまとめたウェブサイトも登場しており、声明への署名を呼びかけている。
今後、同様の動きが広がる可能性もありそうだ。