NHK記者らのインサイダー株取引を巡る第三者委員会の調査を、1000人近くもの職員が協力していなかったことが分かった。これに対し、同委員会では、「意図的なサボタージュ」の可能性を指摘しており、自民党からも不満が噴出して調査報告書を突っ返す事態になっている。
「正直言ってあぜんとする。NHKはそんなに暇なのか」
勤務中に81人もが株取引をしていたNHK
この問題では、NHKの報道局テレビニュース部などの30~40歳代の男性記者、ディレクター計3人が、局内のスクープを事前に見て、回転寿司チェーンの株を買って売り抜けていたことが2008年1月に発覚。証券取引等監視委員会が、金融商品取引法違反で3人に課徴金の納付命令を出している。
NHKでは、発覚直後に聞き取りの「緊急調査」を行い、ほかにインサイダー取引の職員は見つからなかったものの、勤務時間中に職員3人が株取引をしていたと発表した。その後、弁護士ら有識者による第三者委員会が、より本格的な過去3年間の調査を行い、5月27日に調査報告書をまとめた。
それによると、インサイダー取引は確認できなかったが、勤務中に株取引をしていたのは、少なくとも81人に上ることが分かった。同委員会が指摘するように、「『緊急調査』の結果は必ずしも信用できるものではなかった」わけだ。
しかし、調査は困難を極めた。NHKの職員がウソをつくケースがいくつも出てきたからだ。勤務中株取引をした81人中、6人は当初ウソをついており、第三者委が証券会社で6人の取引履歴を調べて初めて分かった。また、別の1人は、ウソ発覚を恐れてか、途中から自主訂正している。
勤務時間外を含めて株取引をした1447人のうち、3年間で5000回以上の取引を行った職員がいた。1日に7取引以上していた計算になるという。取引回数が200回を超えた職員も100人以上いた。こうした調査結果を踏まえ、第三者委では、「NHKにおいて、個人投資家としての立場と報道に携わる者としての立場を併せ持つ者が少なからず存在する」と指摘している。
調査結果を知った町村信孝官房長官は、28日の記者会見でこう驚いてみせた。「正直言ってあぜんとする。NHKはそんなに暇なのか」と。
自民党は調査報告書突っ返す
NHKの緊急調査のように、自主申告だけではウソが多く含まれる可能性が大きい。そこで、第三者委では、株の取引履歴を実際に調べ、その際、職員に調査への委任状を提出してもらうことにした。ところが、提出に協力しない職員が続出したのだ。
その数は、943人にも達した。不備な委任状が303人と多かったが、そのほかは無回答や拒否など。これは、本人や家族名義での株保有を認めた職員の3分の1に当たる。非協力者には、プライバシーを理由に挙げる声も相次いだ。「今回の2次調査は、協会職員全員をインサイダーの容疑者として扱っており、プライバシーの侵害も甚だしい調査と受け止めます。捜査機関でもない、任意の調査の限界を超えたものといわざるを得ません」といった主張だ。
申告そのものをコロコロ変えるケースも見られた。株の保有について、当初は認めながら、後になって自主訂正で否定した職員がなんと166人にも達したのだ。これについて、第三者委は、「予期せぬものであった」と驚きを隠さない。そして、「次の調査で取引履歴を取り寄せることを知り、当委員会に取引内容を知られたくないという心理が働いて訂正を行った者が相当数含まれるのではないか」と推測している。訂正の理由は、「よく調べたら株を持っていなかった」などだった。さらに、株の保有ばかりでなく取引まで認めながら申告を翻した職員が95人もいた。
こうした実態を知った第三者委では、「相変わらず派閥抗争に明け暮れ、嵐の過ぎ去るのを待つだけという役職員も相当数存在する」と組織上の問題点を指摘している。
自民党の総務部会などは28日、NHKから説明を受けたものの、「不徹底だ」として、調査報告書を了承しなかった。特に、943人もの職員が株調査に協力していないことに対し、「NHKが評価されない体質がこういうところに露呈している」などと批判が集中した。これに対し、NHKの福地茂雄会長は、「極めて残念に思っている」と記者団に話し、再調査などを検討する考えを示している。
任意調査に限界があるのなら、警察に告発することを考えないのか。こうした点をNHKにただそうとした。が、NHK広報部では、
「正直に申し上げて、報告書に出ている以上のことは分かりません。どう考えるかはこれからのことで、真摯に受け止めて、対策を練り上げていきたいということだけです」
と繰り返すのみだった。