原油高の波紋が、今度はマグロ漁に広がっている。遠洋マグロ漁の業界団体が、「採算が取れない」と一部休漁することを決めたのだ。燃料価格はこの2年で2倍に跳ね上がり、漁に出たとしても、取れる魚は年々減少するという「ダブルパンチ」の中での決断だ。業界からは「漁に出れば出るほど赤字が出る。魚の価格が適正な水準に戻らないとやっていけない」と悲鳴が上がっている。休漁は、マグロの市場供給量を減らすことが目的で、小売価格の上昇は必至だ。
1回の漁で3000万~5000万の赤字
「大衆マグロ」の価格は上昇しそうだ
遠洋マグロ漁業の業界団体「日本かつお・まぐろ漁業協同組合」(日かつ漁協、東京都江東区)は、マグロはえ縄漁の一部を休漁する方向を検討している。他の組合にも呼びかけ、国内で操業するはえ縄漁船約380隻のうち、約2割が数ヶ月間にわたって休漁する方向で調整を進めている。休漁の対象は、太平洋やインド洋で「大衆マグロ」と呼ばれるメバチやキハダを獲る漁船になる見通しで、クロマグロなどの「高級マグロ」は対象から外れる模様。日本の遠洋マグロ漁で、組織的に休漁を行うのは初めて。
休漁の背景には、遠洋マグロ漁が採算割れに陥っていることがある。その直接的な原因は大きくふたつあり、一つめが漁獲高の落ち込みだ。同組合によると、ここ10年ほどで、まき網漁の影響が出ているという。まき網漁では主にカツオやイワシを獲るが、本来は漁の目的外であるマグロまで根こそぎ獲れてしまうため、水産資源にダメージを与えているのだという。二つめの理由は「原油高」で、こちらはさらに深刻だ。漁船が使う燃料の現在の価格は1キロリットルあたり約12万円で、この2年で実に2倍に値上がりしている。
石川賢廣組合長は、
「漁に出れば出るほど、赤字が広がるというのが現状です。船が1日操業すると約10万円の赤字が出ます」
と明かす。遠洋漁業の場合、一度漁に出ると300日~500日はかかるため、1回の漁で3000万~5000万の赤字を抱えることになる。
さらに組合長は、コストアップを価格に転嫁できないことで、業界が苦しい状況に追い込まれていると訴える。
中国・台湾、韓国など世界的に休漁の流れ
「漁業者側では魚の値段を自ら決められないのが現状で、現在は、量販店の価格形成力が強すぎます。量販店からすれば『値上げ凍結宣言!』といったキャッチフレーズでの売り方はあり得るのでしょうが、『採算割れでも価格を下げろ』というのでは、もう漁業者は生活できません」
その上で、今回の休漁措置は、価格に影響力を及ぼすための、いわば「強硬措置」であることを明かした。
「もう黙っていられません。今のやり方では、事業が成り立たなくなってしまう。今回の休漁措置で市場への供給量をしぼり、価格に反映させることを目指します。本来ならば『適正価格』というものがあるはずで、その水準まで戻したいです。『再生産』できる仕組みが重要だと思います」
国内だけでなく、世界的にも休漁の流れは加速している。世界10の国・地域のマグロ遠洋漁業団体でつくる「責任あるまぐろ漁業推進機構」(OPRT、東京都千代田区)は08年5月27日、「燃料価格の上昇は、経費節減の努力の限界を超えている一方で、燃料価格分を魚の値段に転嫁するのは困難」などとする声明を発表。声明では、中国・台湾では、一部の漁船が、すでに組織的な操業停止に入っていることを明らかにした上で、韓国も日本同様に追随するとの見方を示している。声明では
「遺憾ながら、天然刺身マグロの供給が減少する事態となることについて、消費者のご理解を願いたい」
としており、食卓に届くマグロの値上がりは避けられない情勢だ。