英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)が、電力卸大手のJパワー(電源開発)に対する委任状争奪戦を宣言した。中垣喜彦社長の解任や増配などの株主提案の実現に向けてTCIのアジア代表、ジョン・ホー氏は、2008年6月26日の株主総会での勝利に向け、機関投資家や個人投資家向けの説明会を実施し、支持を拡大させたい考えだ。ホー氏は、株式持ち合いを批判し、Jパワー経営陣と法人株主の日本生命やみずほコーポレート銀行などに揺さぶりをかける戦略を取っており、攻防が激化している。
経営陣と持ち合い株主との特別な関係を批判
「持ち合い株主や取引先株主の存在が、株主による経営の監視を阻害している問題に脚光を充てるのも狙いだ」
ホー氏は6月21日、東京証券取引所内の記者クラブで開いた会見で、Jパワー経営陣への批判とともに、株式持ち合いの問題点を指摘。TCIがJパワーよりも高い配当を提案したことについて、Jパワー株主の日本生命とみずほコーポ銀を名指しして、「Jパワーの低い配当案に賛成したら、説明責任が問われる」とけん制。同時に、今回の委任状争奪戦はJパワーとTCIだけの問題にとどまらないと強調。経営陣と持ち合い株主との特別な関係で、株主や、株式での運用益を得ている年金生活者ら数百万人の人々が犠牲になっていると訴えた。
TCIが、委任状争奪戦に踏み切り、Jパワーの法人株主への批判を強めている背景には、Jパワーの筆頭株主としての影響力が行使できないいらだちがあるとみられる。「なぜ筆頭株主を尊敬しないのか」。ホー氏は会見などで、決まってこう口にする。
TCIは、年間配当を最大120円に増やすことや、株式の持ち合いの制限などを株主提案。しかし、Jパワー側は年間70円への増配を決めたにとどまり、TCIの株主提案をすべて拒んだ。他方、Jパワー株式の買い増し計画は、政府が外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づいて初の中止命令を発動したため、現在ではストップしている。
「政府と対立したファンドに同調するリスク大きい」
TCIが委任状争奪戦でどれだけの賛同を得られるか。配当政策だけを見れば、Jパワーの年間70円に対し、120円か80円という二つの選択肢を提示しているTCIに勝算ありと、単純にいえるかは微妙だ。両者の提案について、ある法人株主は、「Jパワーの経営状態から120円は論外としても、70円と80円を比べたら少しでも高い配当を選ばないと、こちらも株主に合理的な説明を迫られる」と打ち明けるが、「政府と対立したファンドに同調するリスクは大きい」(別の法人株主)との声は少なくない。Jパワーも、「TCIのやり方は株主の賛同を得られない」として、TCIの株主提案否決に自信を見せている。
TCIが委任状争奪戦にも敗れると、「TCIへの出資者から批判が強まり、ホー氏自身もアジア代表の地位が危ぶまれる」(大手証券)との見方もある。TCIの今後の戦略にも影響は避けられないとみられるだけに、激烈な委任状争奪戦になりそうだ。