ワークスタイルの変革で「環境負荷」が減る
グリーンITの現在と未来 東大・江崎浩教授、日立・竹村哲夫氏対談

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SaaSや仮想化技術もグリーンITに貢献

――機器や施設によるエネルギーの消費軽減という観点以外では、どういう取り組みがありますか?

江崎   実は東京大学というのは、東京都の中でもっとも電力を消費している施設だそうです。エネルギーの「消費」面では省エネ化を考えるべきでしょう。一方でエネルギーの「供給」を考えた場合、もしかすると構内に発電所を置くことが効率的なのかもしれません。同様のことが「産」の分野ではファクトリーオートメーション(生産の自動化)の視点から議論されていることと思いますがいかがでしょうか。
竹村   もちろん議論を行っていますが、それ以上にチャレンジしているのがワークスタイルの変革です。人の活動そのものを変えて行くことで、結果として現場のデザインや使用するエネルギーも変わります。

   その一例として、日立では、社員が使うコンピュータに最低限の機能しか持たせない「シンクライアント」化を急速に進めています。これは個人情報保護に代表されるセキュリティ面の発想が起点なのですが、書類やデータをデータセンターに集約することで、社員が自分専用の机を持たない「フリーアドレス化」とサテライトオフィス化が実現しました。結果として、フロアスペースが33%削減でき、逆にお客様への対応時間は30%増加したという成果が出ました。

   これは書類やデータを集約することによって、ワークシェア(労働時間短縮)やファイルシェアを積極的にやらざるを得なくなったことが大きな要因だと考えられます。提案書や見積りの作成も共同作業によって半分以下の時間で行えるようになりました。もちろん、作業時間の削減はエネルギーの削減に直結します。

   今のところグリーンITにどの程度貢献するかと言う標準的な指標はないのですが、定量的に評価する環境ができてくると、ワークスタイルの変化が環境に与える影響を判断できるようになると思います。
江崎   データの集約がワークスタイルを変化させ、エネルギー消費を抑えるというのは非常に興味深いですね。その意味では、ソフトウェアの機能をユーザーがネットワーク経由で活用するSaaSや仮想化も同様の効果をもたらすかもしれません。たとえば100台あったサーバが10台に集約するなど、データセンターに集約した資源を仮想化してできるだけ共有していくという考え方は、グリーンITとSaaSが同じ目的を持って進歩していく推進剤になるのではないでしょうか。

   さらに言えば、ワークスタイルの変革で人の活動が変わる、というお話がありましたが、エコシステムを考える場合、「環境デザイン」という視点も非常に重要です。農業や物流を中心にデザインされた都市が、ITの利用が進んだ現在から将来にかけても通用するのかは疑問です。エネルギーの供給と消費は、人の活動そのものに影響されます。コンピュータを誰がどのように利用しているか、という情報を得ることができれば、よりよい都市空間のデザインを行える可能性がでてくる。グリーンITは、そこまでを視野に入れて取り組むべきだと思います。
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