最近の調査で、日本人回答者の7%がドッグフードを食べることを認めた――こんな一文を書いた英紙の記事が、ネット上で論議を呼んでいる。業界では、「そんな調査結果があるとは思えない」と話す関係者は多い。もしそうだとすると、単なる取材上のミスなのか。
「釣られたか、もしくは人種偏見」との声も
日本人がドッグフードを食べると書いた英テレグラフ紙の記事
問題の一文が書かれたのは、イギリス最大の発行部数がある「デイリー・テレグラフ」紙の2008年4月25日付記事。そこでは、スコットランド・プレミアリーグのセルティックで活躍中の中村俊輔選手に対し、ライバルチームであるレンジャーズのサポーターが「ナカムラが俺の犬を食った」と人種差別的な横断幕を掲げたことについて触れている。この横断幕について、記事では「非礼であり侮辱」だと指摘。日本ではなく韓国で犬が食料になることがあり、それは、貧しい時代にやせた農地には見られた、と述べている。
そして、問題の一文が続いて現れた。
「最近の調査によると、日本人回答者の7%がドッグフードを食べることを認めていることが分かった。たとえ、それが英王室ご用達のトップブランドのものだったとしてもだ」
この記事については、5月24日になって2ちゃんねるに投稿によるスレッドが立てられた。中村選手の問題が騒ぎになったことから、目に留まったらしい。そこでは、テレグラフ紙が記事を書くうえで参考にしたと思われるとして、英語のブログ「世論 What Japan Thinks」が紹介されている。ブログの06年8月27日付日記では、同紙と同じように「日本の飼い主の7%がドッグフードを食べる」とタイトルに書かれている。
しかし、日記を読むと、そのタイトルは「釣り」で、日本の飼い主の7.1%が人間の食べるのと同じものを買って犬に食べさせている、と紹介している。また、日記では、英王室ご用達の会社が人も食べられる新しいプレミアムドッグフードを売り出した、ということにも触れている。そのうえで、投稿者は、「テレグラフの記者が釣られたか、もしくは人種偏見を煽るために意図的に捏造した模様」と指摘している。
人が食べられる英ドッグフードもあるにはあるが…
とすると、日本人飼い主の7%がドッグフードを食べているという調査結果の存在は、ウソなのか。
農林水産省畜産振興課では、「それはまったく根拠のない話ですね。そんな調査結果があるというのは、聞いたことがありません」と否定的だ。いくつかのドッグフード販売会社に聞いても、同様な反応だった。
人間も食べられる英王室ご用達のドッグフードのようなものについて、農水省に聞くと、「聞いたことがありませんが、各メーカーがどういうものの売り方をしているかによります」と答えた。ただ、「人間が食べているものを犬にも食べさせたいという愛犬家はいます。そのようなドッグフードならありえるでしょう」と話す。同省などの研究会が07年11月に調査したところ、100%ペットフードに依存している飼い主は、67.6%。その以外は、自ら作った料理や残り物を与えている飼い主だった。
前出のブログでは、英王室ご用達のドッグフードは何かに触れていない。が、日経流通新聞の06年8月11日付記事では、人も食べられるという英ジャジーズチョイス社の高級ドッグフード「コミュニケーション・ダイエット」が紹介されていた。それによると、愛犬家で有名なエリザベス女王が6匹のペットに高級料理を与えているのに目を付け、女王の許可を得て日本向けに考案して売り出したという。
とはいえ、イギリスでは売り出されておらず、日本での販売は1年ほどで終了したようだ。
日本では、ほかに人が食べられるドッグフードはあるのか。大阪府のドッグフード販売会社は、「ジャジーズチョイス社のは、飼い主と一緒に食べるのではなく、人の食べている食材でドッグフードが作られているということだと思います。しかし、飼い主も一緒に食べられるものは、アメリカからの輸入品など何種類かあります」と話す。
一方、東京・豊島区の販売会社では、「ペットと一緒に食べることを想定したドッグフードはないんじゃないかと思います。人が食べる食材で作られたドッグフードは、人が食べられるくらい安全に作られているということじゃないでしょうか」としている。