米国のサブプライム問題に関して、渡辺喜美・金融担当相は「アメリカの当局は、日本のバブル崩壊後の処理を見習え」などと勇ましい発言をしてきた。しかし、1990年代の日本と、いまの米国とは状況がまるで異なるし、当時の日本の処理方法が優れていたわけでもない。日本を参考にするのであれば、むしろ反面教師としてなのだろう。
迅速だった米国の対応
金融当局の対応の違いをみてみよう。わが国の不動産・株式バブルが最高潮だったころ、政府は過激な対処療法を採用して市場を大きく混乱させた。すなわち、1989年の公定歩合引き上げと消費税の導入、90年の不動産融資規制などだ。しかし、その後は逆に政策を小出しにすることで対応が後手にまわることになって、結果として「失われた10年」を演出した。
今回の米国の金融当局の対応は、はるかに迅速である。米連邦準備制度理事会(FRB)は金利の引き下げと流動性の供給を、かつてないほどのスピードとスケールで進めてきた。議会とブッシュ大統領も住宅ローンの債務者に対しての対策や証券化やノンバンクに内在する問題点を改善する作業を実行している。
そこには問題がいろいろあるにしても、政府と議会、FRBが連携してスピード感をもって処理にあたっているのが見てとれる。おかげで、住宅関係以外に問題が大きく波及するのが抑えられているし、株価もそれほど大きく下がらずにすんでいる。
邦銀は中小企業と庶民が「助けた」
金融機関の動きも対照的。日本の銀行は資本力が急速に悪化したため、不良債権の償却を何年もかけて分割して行うことでしのいだが、結局はそれでも間に合わずに公的資金の資本注入を受けた。なかには取引先(借り手)企業に増資の引き受けをほとんど無理強いさせた銀行もある。結果的は数年後に多くの銀行が立ち直ったわけだが、このような手法はマーケットメカニズムや公正な取引関係という原則からは対極にあるものだ。
一方、サブプライム関連の債権は証券化されているので、リスクの金額はとりあえず明確に数字で現われる。そこでいくつかの米国の金融機関も否応なしに相当な金額を早い段階で償却した。それを埋めるために、彼らはアラブのファンドや海外の銀行などから資金を集めて増資したのだ。あくまで「自力救済」である(政府がベア・スターンズを間接的に救済したことが唯一の例外となっているが、これの正当性については賛否両論ある)。
もちろん、客観的に見て日本のバブル崩壊のほうがずっと深刻であったから、ドラスティックな手法はなかなか取れなかったとはいえる。オリエンタル・エコノミスト・リポート編集長のリチャード・カッツ氏が言うように「アメリカの住宅価格は2006年のピークまでの10年間に3倍になったが、日本の住宅価格は1991年までの10年間に5倍になった」。しかし結局のところ、わが国の金融システムを支えたのは中小企業と一般庶民といえるのではないか。彼らこそ公的資金を供給し(税金を払い)、また不動産価格が大きく下落しても黙々とローンを返済してきたのだ。
弱い者が金融機関を助けるシステム――これを米国が導入しなかったことは幸いである。++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。