環境保護団体グリーンピース・ジャパンが、調査捕鯨で得られた鯨肉を運輸業者の保管所から持ち出し、業者が盗みの被害届を出したことが分かった。グリーンピースは「横領の証拠品確保に必要だった」ため窃盗には当たらない、としている。しかし、専門家は証拠収集だとしても犯罪になると指摘、その手法が波紋を呼んでいる。
青森県警に盗みの被害届を出す
グリーンピース・ジャパンのホームページ
グリーンピース・ジャパンが持ち出した鯨肉は、日本の調査捕鯨船の乗組員が帰港後に北海道函館市の自宅に送ろうとした段ボール箱に入っていた。運び込まれた西濃運輸青森支店で2008年4月16日になくなり、同社では、J-CASTニュースの取材に対し、青森県警に盗みの被害届を5月16日に出したことを明らかにした。なくなったのは、客が自由に出入りできるトラックターミナル内だった。
グリーンピースによると、この段ボール内には、鯨肉のうちベーコンに使われる高級な部位「畝須(うねす)」23.5キロが入っていた。関係者から鯨肉横領の情報を得たとして、捕鯨船が東京港に戻った4月15日、乗組員12人が47箱の荷物を宅配しようとするのを確認。そのうち函館市の乗組員に目をつけ、鯨肉入りとみられる段ボール箱を積んだトラックを追跡していた。
一方、調査捕鯨をしている日本鯨類研究所と乗組員を出している共同船舶は、持ち出された鯨肉が乗組員への土産だったことを明らかにした。約250人いる乗組員全員に、4キロの畝須の切り身2本などを渡している。函館市の乗組員が10本23.5キロも持っていたのは、「仲間から集めたため」という。
グリーンピースは、23.5キロで11~35万円するとし、47箱にも畝須が入っている可能性が高く、その場合、約1トン1500万円ほどになるとしている。日本鯨類研究所などでは、「ベーコンの状態でないので、それほどの値段はつかない。衣類などの生活用品が入っていた段ボール箱もあり、畝須は今のところ1箱でしか確認されていない」としている。
水産庁遠洋課では、「事実関係を確認しているところで、まだコメントを出す段階ではありません。共同船舶が日本鯨類研究所から購入した鯨肉を乗組員に渡していたと聞いており、それなら何ら問題はないと思っています」と話している。
グリーンピースは違法性を否定
これに対し、グリーンピースでは、持ち出した1箱は、土産ではなく、乗組員が横領したものだと主張している。担当部長は、その理由として、「お土産や販売用なら、冷凍されてクール宅急便で送られます。今回のは、そうではなく、常温の塩漬け状態になっています」と説明。「鯨肉は横流しで転売しているという証言も得ています」と話している。そして、グリーンピースでは5月15日、記者会見して、この鯨肉を証拠品として示し、東京地検に業務上横領罪で告発した。
日本鯨類研究所などでは、グリーンピースの主張に反論。「段ボール箱に入っていた鯨肉は、土産で渡したものであって、横領とは違います。また、横流しして売っていたという事実もありません。狭い船ですから、何百キロも隠すようなことは物理的に無理だからです」と話している。
グリーンピースが乗組員の鯨肉を持ち出したことについては、「盗み出したとしか思えません。『証拠品』と称して記者会見で高々と盗品を掲げるセンスは理解できない」と反発している。乗組員がグリーンピースのメンバーを窃盗罪で告発するかどうかについては、「まだ聞いていませんが、やる方向で検討していると思います」としている。
グリーンピースの証拠収集の手法は、専門家から見てどうなのか。
刑法に詳しい日大大学院法務研究科の板倉宏教授は、「鯨肉を持ち出したのは、窃盗に当たると思います」と話す。グリーンピースが犯罪の証拠品になると主張していることについては、「証拠能力はあります。ただ、証拠を得るために窃盗までするのは、正当性がなく認められるものではありません」と指摘している。
記者会見で鯨肉持ち出しを認めたグリーンピースでは、「乗組員の業務上横領を示す物的な証拠を確保するため、仕方がなく必要なことでした。ですから、私たちは、盗みだとは思っていませんし、違法性はないと考えています」と主張している。