「世界最大級」とも言われる三菱東京UFJ銀行の基幹システムを統合する作業が山場を迎えている。ところが、新システムを稼働させた直後に、提携機関のATMとの間で預金の引き出しや入金ができなくなるというトラブルに見舞われてしまった。同行では、100万回以上もテストを繰り返し、システムの開発状況を説明するための異例の記者会見を開くなど、万全の体制で臨んできたが、それでも障害を防ぐことはできなかった。大規模システムの統合の困難さが、改めて浮き彫りになった形だ。
100万回以上テスト繰り返す
三菱東京UFJは正念場を迎えている
大手銀行が統合する際のシステムトラブルは、これが初めてではない。02年春に第一勧業、富士、日本興業の3行が統合して、みずほフィナンシャルグループ(FG)が発足する際、開業初日に大規模なシステム障害が発生。ATMで残高照会などができなくなったほか、口座振替に大幅な遅延が発生したのは記憶に新しいところだ。影響は1か月以上続き、結果、口座を解約する顧客が相次ぎ、金融庁から業務改善命令を受けることになったという経緯がある。
三菱東京UFJの発表によると、2008年5月12日午前、提携先であるセブン銀行のATMで旧東京三菱のカードを使った引き出しや残高照会ができなくなり、約2万件の取引ができなかった。それ以外にも、ゆうちょ銀行など6つの提携金融機関に口座を持つ顧客が、旧東京三菱のATMから入金できなくなるトラブルが262件発生した。三菱東京UFJと提携先とでやり取りするデータの形式に誤りがあったことが原因だった。
この日は、旧東京三菱の約250店が、新システムに移行する作業が行われ、今後、旧UFJ銀のシステムを新システムに5段階にわけて移行を進める。つまり、移行作業はこれからが本番と言え、今回のトラブルで「出鼻をくじかれた」との指摘もあがりそうだ。
実際、渡辺喜美金融担当相は5月13日の記者会見で
「点検と試験を重ねてきたはずなのに残念。今回の不具合を踏まえて、二度と起きないようにして欲しい」
と注文を付けてもいる。
もっとも、同行は、統合作業に慎重を期して取り組んできた。今回のシステム統合作業は、2つの段階を踏んで進められている。「Day1」と呼ばれる第1弾では、旧2行の「勘定系」と呼ばれる基幹システムを「接続」し(05年2月~06年1月)、第2弾の「Day2」で基幹システムを「統合」する(06年1月~08年12月)という段取りだ。今回のトラブルは「Day2」の作業中に発生したということになる。
Day2の完了は08年末を見込んでいるが、当初は07年12月だったものを1年間延期した、という経緯がある。Day1の最終段階で金融庁からテスト不足を指摘され、銀行の合併を3か月延期せざるを得なくなり、Day2についても慎重を期した結果だ。テストを行った回数も100万件を超えている。
プロジェクトの進行には自信満々だった
さらに、処理能力自体は日立製作所製の旧UFJのシステムが高いとされた一方、旧東京三菱が事実上旧UFJを救済する形で存続行となった関係で、統合後のシステムもIBM製の旧東京三菱のシステムに「片寄せ」する形となった。一方で、ATMの365日24時間連続稼働など、旧UFJにしかなかったサービスも維持することになったため、その分の機能を追加開発することになった。
こういったことから、「Day2」の作業規模は当初見通しよりも大きく膨らんだ。「日経コンピュータ」によると、「Day1」の作業規模と投資額は3万人月(1人月=1人のエンジニアが1か月働く作業量)、800億円だったのに対し、「Day2」は11万人月、2500億円という規模だ。ピーク時には6000人がプロジェクトに携わり、世界最大級の開発規模だとも言われている。
08年2月下旬には、一部報道機関に対して、プロジェクトの進捗状況を記者会見して説明。システムの開発状況について会見を開くだけでも異例だが、同行では
「社会に与える影響が大きいため、説明責任がある」
「順調かどうか、皆様にご判断いただきたい」
などと、自信を見せてもいた。
それでも発生してしまったシステムトラブル。04年7月の経営統合発表から丸4年が経とうとしているが、この半年が正念場と言えそうだ。