山形県の日本酒が、東京都内の居酒屋に対して出版社が行った好感度調査で1位に選ばれた。一般消費者を対象にした調査では、新潟県が好感度トップだったが、玄人筋には山形酒の評価が高いらしい。そのわけは?
「山形酒はこれから伸びていきます」
日本酒好感度をグラフにしたフルネットのサイト
「一般の方には、なかなか分からないと思いますね」
日本酒好感度ナンバーワン調査をした東京・築地の出版社フルネットの中野繁社長(62)は、都内の居酒屋が山形酒をトップに選んだことについて、こう話す。同社が08年1~2月にかけて行ったアンケートによると、山形酒に対する支持は得票率の52.9%と過半数を超える圧勝だった。
実際、同社が08年4月13日に開いた「純米酒フェスティバル」の会場で行った一般消費者調査では、酒どころとして知られる新潟県が好感度ナンバーワンに選ばれている。「プロが見ると、そうではないんですよ。そこが一番のポイントになります」と中野社長は言う。
日本酒プロデューサーもしている中野社長は、その理由についてこう語る。
「おいしいお酒がたくさんある、これに尽きるんですね。逆に言えば、ほかにおいしくないお酒がたくさんある県がいっぱいあるということです」
さらに、中野社長は、「お酒は量産するとよくない。兵庫・灘や京都・伏見の大手酒造は、プロは一切評価しません。少量生産で高品質の飲んでおいしいお酒を造っているメーカー、酒蔵がたくさんあるのが山形というわけです」と説明する。
このほか、首都圏で地道に行ってきた利き酒会やイタリア料理とのマッチングを提案するイベントなどのPR効果もあるとしている。
中野社長によると、山形酒で有名なのが「十四代」(高木酒造)、「出羽桜」(出羽桜酒造)。この2銘柄で、トップグループを引っ張っている。全国で販売しているものの、量をそれほど造っていないので、シェアは大きくはない。が、地元では出回る数は少なく、全国各地の居酒屋などから引っ張りだこの人気だという。
山形は、消費者調査でも3位と健闘しており、中野社長は、「山形酒はこれから伸びていきます。一般消費者の好感度でもトップになるでしょう」と言い切る。
吟醸酒などの高級酒の割合が多い
山形の地元では、玄人筋の高評価をどのように受け止めているのか。
山形酒の品質向上などを進めている同県工業技術センターの小関敏彦酒類研究科長は、次のように話す。
「山形は、日本酒の生産・販売量は、全国で12位なんですが、吟醸酒などの高級酒の割合が多いんです。吟醸酒と純米吟醸酒の生産・販売量は、4位に入っています。ですから、正しい評価をしていただいたと感じています」
なぜ高級酒に力を入れたかについては、小関科長は、「かつて東北の酒どころと言えば、秋田と福島でした。しかし、それは普通酒でも売れた時期で、今では京都・伏見のお家芸になっています。そこで、山形では高級酒しかないと考えたわけです」と説明する。
吟醸酒王国を目指す県と酒造組合が協力し、30年来、品質向上を目指して技術研修などに励んできた。「取り組みが早かったため、時代の風が吹いた」と小関科長。銘柄としては、十四代などのほかに、「くどき上手」(亀の井酒造)、「上喜元」(酒田酒造)など、若手で頑張っている売れ筋の小さな酒造は多いという。
一方、酒どころの新潟県。好感度は、消費者調査ではナンバーワンだったものの、東京の居酒屋が選んだ調査では、3位に甘んじる結果となった。
これに対し、新潟県の酒造関係者は、「嗜好品なので、好みですよ」と受け流そうとする。「山形と新潟のどちらがおいしいかは、人それぞれ。一喜一憂の必要はないと思っています。また、年齢、性別、場所など、条件によって結果は違う。調査対象にもよるので、一概に良し悪しは言えない」と話している。