軽自動車の開発・生産から撤退する富士重工業。スバルブランドの軽自動車を順次、ダイハツ工業からのOEM供給に切り替え、現在の軽自動車のモデル数と販売台数は維持していく計画だ。この方針転換が軽自動車メーカーの真の日本一の座をかけたダイハツとスズキの新たな戦いを招くことになった。
販売台数では2008年度にもスズキが逆転?
日産はスズキから軽自動車の供給を受けている(写真は日産「ピノ」)
2007年度の軽自動車の新車販売台数は約189万3000台(前年度比6.8%減)。約61万3千台(同0.6%減)を販売したダイハツが32.4%の販売シェアで年度シェアトップ2連覇を達成した。ライバルのスズキは約58万7000台(同3.0%減)で販売シェアは31.0%。ダイハツとスズキの差は約2万6千台にすぎない。
ダイハツは2年前、スズキが軽自動車販売シェアトップの維持よりも販売好調な海外地域への生産供給を選択して軽自動車の生産を抑え、その結果軽ナンバーワンの称号を手に入れた。だがスズキの新工場である相良工場が08年秋に稼動する。
スズキの鈴木修会長は「いつまでも2位で良いとは思わない」と、ナンバーワンへの返り咲きのタイミングをうかがっている。
スズキは相良工場の稼動に加え、2008年度下期に主力車種「ワゴンR」を フルモデルチェンジする。一方のダイハツは新型車投入の谷間の時期に入り、販売増が期待できない状態にある。2008年度の首位争いはスズキが断然有利な 状況にあり、早ければ2008年度の逆転もありえる。
だがナンバーワンの称号をかけた戦いは販売だけではない。軽自動車メーカーとしての生産量でも戦いは行われている。スズキは日産自動車とマツダにOEM供給している。マツダが販売する軽自動車はすべてスズキ製。日産はスズキと三菱自動車の2社から軽自動車を調達し、スズキからは「MRワゴン」ベースの「モコ」と「アルト」ベースの「ピノ」の供給を受けている。
2007年度の軽自動車の新車市場でマツダは約5万7000台(同6.9%増)を販売し、日産は約14万2千台(同1.5%減)の軽新車販売台数のうち、スズキ製が約7万9000台(同4.6%増)となった。スズキが生産・供給した軽自動車の2007年度新車販売台数は3社合計で約72万4000台(同1.5%減)になる。
生産車の販売ベースで見ると、スズキの2007年度の国内販売シェアは36.3%に拡大し、ダイハツを大きく上回る。だが仮にダイハツと富士重を合わせた軽自動車の2007年度新車販売台数は約74万8000台(同3.4%減)で、販売シェアは38.1%になる。
生産ベースでシェア40%目指すダイハツ
富士重が2009年後半からスバルの軽自動車をダイハツ製に切り替えていくことで、OEM車の国内販売台数をも含めた軽自動車メーカーナンバーワン争いが、ダイハツ・富士重連合とスズキ・日産・マツダ連合の2グループによりはじまった。
ダイハツにとっては富士重へのOEM供給は生産台数の増加によるコストダウンが図れるだけでなく、かつてトヨタ自動車から与えられた課題の解消にもつながる。それは販売シェア40%超の到達という課題。トヨタは国内市場ですべての車種の販売シェア40%超を目標としている。このため日野自動車もトラック市場で40%超を目指しているのだ。
ダイハツの販売シェアは、他メーカーが登録車開発に力を入れていたことや、 三菱が不祥事で販売シェアを落としたことなどもあって、ようやく30%を超えた状態まできた。だがスズキという強豪が存在することで、40%のラインは遠い存在となっていた。そこの富士重へのOEM供給の話があり、生産ベースでの販売シェアならば40%に届く可能性が出てきたのだ。
富士重の森郁夫社長は、軽自動車がOEM車に切り替わったのちも年間14万台の軽自動車の販売台数は維持したい考えだ。トヨタが資本参加したときから、森社長は軽自動車販売でも「トヨタグループの一員として貢献したい」と言っており、2009年後半から連合軍2強による激しい戦いが繰り広げられる見込み。
だが問題は、ダイハツが富士重にどのようなOEM車を供給するのかということ。「スバル360」以来の老舗ブランドにふさわしい軽自動車を実現しなければ、固定ファンの多い富士重の軽自動車販売は減少の一途をたどる危険性をはらんでいるのだ。