ゆうちょ銀行の貯金残高が減少している。2008年3月期の定期性貯金の残高は117兆8778億円で、2月末と比べて1兆3492億円(1.1%)減った。株式や為替市場が混乱するなかで、投資信託や株式投資にまわっていた投資マネーが銀行などの定期預金に流れ込んでいるのに、ゆうちょ銀行の貯金残高は減り続けている。こうしたなか、ゆうちょ銀行は5月12日から12月30日まで、「定額貯金キャンペーン」を展開。貯金残高の減少をなんとか抑えようと懸命だが、そこには別の思惑も見え隠れする。
継続狙いのキャンペーンは初めて
サブプライム問題の余波で株式や為替市場が混乱するなかで、投資信託などにまわっていた投資マネーが銀行などの定期預金に流れ込んでいる。なかでも、インターネット専業銀行は市中銀行などより金利がいいこともあって、絶好調だ。
07年9月に開業した住信SBIネット銀行は、開業から191日で預金3000億円を突破した。3期目7000億円を目標にしていたので、「予想ははるかに上回っています」(広報担当)という。4月21日からは、100万円以上の預け入れ金額に応じて現金をプレゼントする特典付き特別定期預金キャンペーンを展開中(5月23日まで)。「滑り出しも順調です」と話している。
一方、ゆうちょ銀行の「定額貯金キャンペーン」は2008年5月1日から12月30日までに満期を迎える定額貯金を「原資」に、100万円以上を定額貯金に継続して預け入れた人に、抽選で最高5万円相当のギフトカードを600人にプレゼントする。
ゆうちょ銀行によると、今回のキャンペーンの対象となる、満期を迎える定額貯金は、残高で1年で10兆円弱に上る。広報部は「日頃の感謝を表したい」と説明するが、「なんとか、(残高を維持)したい」と本音も漏らす。
これまでニューマネーの獲得を狙ったキャンペーンはあったが、取引の繋ぎとめのためのキャンペーンは初めてという。
残高減少しては困る理由
定額貯金といえば、預入期間10年の半年複利。しかも6か月経過後の引き出し自由という流動性と定期性を兼ね備えた商品で、高金利時代には10%を超える利回りで人気を博した。いまの「巨大ゆうちょ」をつくった原動力。その後の預金金利の自由化やゼロ金利政策を経て、いまでは「ふつうの商品」になってしまったが、それでも1年で10兆円弱の金額が満期を迎えるのだから、その資金に目をつける金融機関は少なくない。
10年前の定額貯金の金利は年0.2~0.3%。ゆうちょ銀行は「100万円預けた人で数万円程度の利息になります」という。いまの金利は年0.407%なので、10年前よりはいい。
ここ数年の「貯蓄から投資へ」の流れにあって、ゆうちょ銀行も投資信託の販売に力を入れてきた。それもあって定額貯金の満期金も、投資信託に回してもらってきた。株式市場などが混乱して投資信託の購入を見合わせる人が増えるなかで、貯金が他の金融機関に流れているのは確か。
「いずれ投資信託を買ってもらうにしても、手元においてもらっていればセールスしやすいですからね」(東京都内の大手信金幹部)と、「繋ぎとめ」キャンペーンの狙いを読む。
じつは、ゆうちょ銀行にはこの10兆円弱を必死になって繋ぎとめなければならないわけがある。同行には、通常貯金や定額貯金などを合わせて「一人あたり1000万円以下」という規制があって、民営化されたことで、現在その規制撤廃を求めているところ。
「一人あたり1000万円の枠を取り払えと言っていながら、どんどん貯金残高が減っていってはつじつまが合わない」(銀行関係者)
貯金残高は、ゆうちょ銀行全体でも2000年3月期の260兆円をピークに、その後は年間10兆円規模で減っている。貯金は収益の源泉にもなるだけに、業績にも響いてくる。もはや放ってはおけない状況になっているのだ。