東京都心部のマンション価格が高騰するなかで、埼玉県や千葉県、神奈川県といった東京近郊のマンションに動きがでてきた。東京・港区で平均1億7000万円、新宿区でも1億円を超えて、サラリーマン世帯には手が届かなくなってきた。そんなことで近郊に目が向けられたわけだが、不動産経済研究所は「あえて言えば埼玉県川口市や、千葉県市川市や船橋市、柏市、神奈川県川崎市などでは動きがみられます」(企画調査部)と話す。ただ、同じエリアにあっても売れる物件と売れない物件があり、あくまで物件しだい。しかも、売れている理由は「必ずしも価格ではない」という。
ピンポイントで人気物件に希望者が殺到
不動産経済研究所は「全体的には、近郊の物件が売れているとは言いがたい状況です」(企画調査部)と話す。2008年3月には神奈川県川崎市の「アイランドグレース(2期)」や千葉県柏市の「クレアホームズ柏の葉(2期)」など東京近郊の物件を含む6物件・140戸が即日完売したが、前年同月の28物件・918戸とは比べものにならないほどの落ち込みよう。「たしかに物件によって売れていますが、即日完売した物件は販売規模も小さいことがあります」と説明。近郊の物件は相変わらず苦戦が続いている。
しかし、売れているマンションもある。そこに共通している条件は「駅近」だ。たとえば価格高騰がいわれる都内23区でも、北区の平均販売価格は3000万円台。足立区や墨田区、江戸川区、大田区などは4000万円台とサラリーマン世帯でも買える水準だが、これは埼玉県川口市や千葉県柏市とほとんど変わらない。それなのに、埼玉県や千葉県の物件が売れているのは、マンションの立地が駅から至近距離にあるからだ。
JR横須賀線・湘南新宿ラインが通る横浜・東戸塚駅直結のタワーマンション「BELISTAタワー東戸塚」は、ホームページで会員登録を済ませた人を優先して5月中旬から販売していく。地上26階建てで、10階以上の住居スペース187戸に、会員登録した人は4月22日現在で約2400件と人気を呼んでいる。販売にあたる藤和不動産は「最近ではとても多い」と話し、すでに約400組がモデルルームを見学した。
売れ筋物件について不動産経済研究所は、「駅からは近いほどいい。とにかくバスなどを使わないことが条件になる」と指摘。「たとえ同じ駅でも出口によって売れ行きが違う」ほど、まさにピンポイントで売れているのだ。
「値段じゃない」売れるマンション物件しだい
不振が伝えられる都心部も、いまだに20階以上のタワーマンションは根強い人気。これに限れば、08年3月でマンションの売れ行きを示す契約率は76.3%と、鈍ってはきたものの「不振」とは言いがたい。人気スポットの豊洲がある江東区の平均価格は5488万円で、1年前に比べると1~2割上がったが、「価格が高いから敬遠されているということはない」(不動産経済研究所)とみている。
では、どんな人が買っているのだろうか。「BELISTAタワー東戸塚」の藤和不動産は、「年齢で40歳以上。横浜市内にすでに住んでいて、2件目という買い増しの方も少なくない」と話す。
この物件に限らないが、タワーマンションは駅周辺の再開発事業がらみが少なくなく、「駅近」の条件を満たしている。駅から徒歩であっても、住宅地は夜になると人通りが少ないことなどが敬遠される要因ともいわれる。住宅地だからいいというわけではなく、駅近にスーパー、公園に病院と、とにかく年を重ねるほど便利性のよい場所で暮らしたい、どこへ行くにもあまり歩かずにすむ場所に住みたいということらしい。
一方、都心部のマンションは30歳代が中心。外資系企業などに勤める人や共稼ぎ夫婦が少なくない。こちらは勤務地に近いことが条件になっているようだ。