上野動物園でパンダがまったくいない状態になり、入園者数に影響が出ないか話題になっている。国内では他に2つのパンダ展示施設があるが、「パンダの影響はそれほどない」という施設も。もはや動物園の切り札ではなくなったのか。
「入園者数に急激な変化はない」
パンダについて書いた夕刊紙各紙
東京・台東区の上野動物園では、最後のジャイアントパンダだった高齢の「リンリン」(オス)が2008年4月30日、慢性心不全で死んだ。同園では、72年に中国から「カンカン」「ランラン」のペアが贈られてから、初めてパンダがゼロになった。パンダは上野動物園のシンボルだったが、何か影響は出ているのか。
「初めての経験なので、どうなるか分かりませんが、突然何かが変わったという感じはありませんね。もちろん、入園者から『いなくて残念だった』といった声は聞いています」
上野動物園の教育普及係では、現在の状況をこう話す。平日は2万人、休日は5~6万人ぐらいが入園するが、パンダがいなくなっても、今のところ入園者数に急激な変化はないという。
同園には、最大で4頭のパンダがいた。その後、次第に数が減り、05年にメスの「シュアンシュアン」がメキシコに帰ってからは、リンリンだけになっていた。最後に4頭だった92年の入園者数は、約400万人。それが1頭だけのここ2~3年は300万人台というから、パンダが減ったわりには入園者数に変化が少ない。ただ、教育普及係では、「パンダがいる動物園は少ないので、たとえ1頭でもいればお客さまは来ます」と説明する。
とすると、パンダがいなくなったことで、今後の入園者数は減るのだろうか。
他の展示施設に聞いてみると、6頭がいる和歌山県の民間テーマパーク「アドベンチャーワールド」では、「1994年に初めてパンダが来ましたが、すごく客が増えたという印象はありません」とパンダの影響を限定的にみる。「お客さまは、パンダ目当てだけで来られているわけではありません。暑い夏は海系の動物が、涼しいときは毛皮の動物が人気です。パンダは、子育て中は人気がありますが、いつもいつも一番人気かというと、どうかなと思います」
中国側に払うレンタル料ペアで年間1億円余
一方、パンダ効果を認めるのが、2頭のペアがいる神戸市立王子動物園だ。運営係では、「2000年にペアが来たんですが、前年に比べ倍以上の198万人の入園者数がありました。ここ数年は130万人前後で落ち着いており、30~40万人がパンダ人気の分に当たると思います」と話す。
上野動物園でパンダがいなくなる影響は、他の動物の人気や見せ方の工夫でどの程度集客できるか、などにもよりそうだ。
最近は、動物園でもパンダを確保しにくくなっている。希少種のため、ワシントン条約で取引を厳しく規制されており、上野以外の2施設は、繁殖のために中国と共同研究をする借り受けの形になっている。中国から贈られ、「日本国籍」があるパンダとしては、リンリンが最後だった。
支援名目のレンタル料が高額なのもネックだ。王子動物園によると、支援金としてペアで年間1億円余を中国側に支払っている。「財政難の中で、お金の面は大変ではあります。めったに見られないものを見てもらうということで、理解していただいています」と運営係。
さらに、そのときの日中関係も影響するらしい。日中国交正常化でパンダが日本に贈られた72年以来、節目になる10、20周年に贈与や交換などで中国からパンダがやって来た。ところが、30周年の02年は、小泉純一郎首相の靖国神社参拝の影響で日中関係が悪化。そのために、中国からパンダがやって来ず、上野動物園での数が減ったとの報道もある。
新聞各紙によると、中国の胡錦濤国家主席が2008年5月6日から来日する際、上野動物園に新たにパンダのペアを借り受ける方向で調整が進められている。最近、チベット、毒ギョーザ、ガス田といった問題で日中関係悪化が指摘されるだけに、関係改善の切り札として「パンダ外交」が展開されるとの観測もある。
パンダが初来日したときは、空前のフィーバーとなり、「客寄せパンダ」の言葉が生まれた。今回は、どうなるのだろうか。