枝川二郎のマネーの虎
サブプライム問題のウソ・ホント(2) 投資銀行「何があってもつぶさない」理由

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   サブプライム問題の根っ子にある住宅ローンだが、もともとは普通の銀行が行なっていた地味な業務だった。しかし、住宅ローン市場のなかに証券化の技術が取り入れられていく過程で、モルガン・スタンレーやメリルリンチといった投資銀行もこれに関与するようになった。

   具体的には、巨額の損失を計上したメリルリンチとベア・スターンズにみられるような「CDO」投資が典型的かつ中心的な商品。「CDO」というのは住宅ローンなどの債権を束にしてまとめ、それを担保にして新たにつくられる証券化商品のことで、その商品を格付けごとに切り分けて販売する。こうして何段階もの加工が施されると、個々の住宅ローンの良し悪しなどどこかへ消え去ってしまい、投資家は格付けを頼りに投資判断をするしかなくなる。ちょうど、どこやらの業者が挽肉を作るときに多少の古い肉を混ぜても消費者にはほとんど気づかれなかった、というのと似ている。ここに証券化の最大の問題があった。

ビジネスで無視できない宗教と人種

   ウォール街を代表する投資銀行といえば、モルガン・スタンレーとメリルリンチ、それにゴールドマン・サックスを加えた3社である。なかでもゴールドマン・サックスはユダヤ発祥の会社であり、従業員の2007年の平均年収は約6615万円と抜群に高かった。

   モルガン・スタンレーはプロテスタント(いわゆるWASPつまりW=白人、AS=アングロ・サクソン、P=プロテスタント)の会社で、平均年収は約3430万円。メリルリンチはカトリック(アイルランドとローマ)で、その平均年収はやや低めの約1965万円だが、これは株式リテール関係の従業員の割合が高いためとみられる(金額データはIDD誌より、1ドル100円で換算した)。

   いまどき宗教なんて・・・と思うだろうが、ユダヤ人のデビット・コマンスキー氏が1996年にメリルリンチのCEOに就任したとき、前任者からシャムロック(アイルランドの国章)を渡され、聖パトリック教会に連れていかれた、などというエピソードもある(New・Yorker誌による)。宗教と人種はビジネスにおいて、いまでも無視できない要素なのだ。

債券や株式のマーケットで投資銀行の存在感は圧倒的

   さて、投資銀行がサブプライムによる損失を膨らませたのはCDOを自分自身で抱えてしまったから。右から左へ販売するだけであればそれほどの損失を生じることはなかったはずだ。さらにはリスクをヘッジ(回避)していたはずの部分についても、モノラインと呼ばれる金融専門の保険会社の経営がおかしくなったり、また傘下のヘッジファンドやSIV(証券化商品に投資するための投資子会社)の損失を引き受けなければならなくなったりした結果、損失がさらに増大した。

   とはいえ、現在の債券や株式のマーケットで投資銀行の存在感は圧倒的であり、それにとって代われるようなプレーヤーは存在しない。そのため、当局としては何があってもつぶすわけにはいかない。巨額な赤字を被ったメリルリンチがアラブのSWF(政府系ファンド)や日本のみずほフィナンシャルグループなどが次々に増資に応じて事なきを得たのも、業界第5位のベア・スターンズがモルガン・スタンレーに救済されたのも、その証しといえる。

   ウォール街の投資銀行初の黒人CEOとなったスタンレー・オニール氏はサブプライム問題の責任をとって、メリルリンチの社長の座を追われた。しかし、その陰で彼がメリルリンチの幹部にエジプト人や韓国人、インド人などをそろえ、伝統的な白人男性優位の秩序を壊したことが大いに反感を買っていたこともまた事実だ。

   いまや黒人や女性でも米大統領になれる時代であるが、「宗教と人種」を背景にした投資銀行の「伝統」はまだまだ揺るぎないものなのかもしれない。


++ 枝川二郎プロフィール
枝川二郎(えだがわ じろう)国際金融アナリスト
大手外資系証券でアナリストとして勤務。米国ニューヨークで国際金融の最前線で活躍。金融・経済のみならず政治、外交、文化などにもアンテナを張り巡らせて、世界の動きをウォッチ。その鋭い分析力と情報収集力には定評がある。


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