三菱重工業は国産初の小型ジェット旅客機「MRJ(三菱リージョナルジェット)」の事業化を決定した。2013年の運行開始を目指す。1973年に生産を中止したプロペラ機「YS11」以来、約40年ぶりに国産機が復活し、「日の丸ジェット」が離陸する。
ただ、小型機市場は海外勢との激しい競争が予想される。官公庁中心から民間相手の販売に舵を切れるのかが課題だ。
トヨタや三菱商事なども出資、官民挙げての「オールジャパン」
三菱重工業は小型ジェット旅客機の事業化を決定したが…
全日空がMRJで最初の購入(25機)を決め、日本航空や海外の航空会社も購入を検討している。三菱重工の佃和夫社長は「高い評価を得ており、事業化のめどが立った」と説明した。開発費約1500億円のうち国が約500億円を負担する。開発会社「三菱航空機」にはトヨタ自動車や三菱商事などが出資する方向。官民挙げての「オールジャパン」(経産省幹部)で推進する体制だ。
背景にあるのは国産機の経済波及効果が期待できること。航空機は約300万点の部品や素材を使い、すそ野の広さは自動車産業をはるかに上回る。「YS11」が販売活動で失敗して撤退した後、日本の航空機関連業界は、米ボーイングなどの下請けに甘んじてきた。それだけに国産機は関係者の悲願。甘利明経産相は「日本の産業界の競争力強化に極めて歓迎すべきこと」と強調した。
MRJが参入する小型機市場は今後拡大が見込まれている。日本航空機開発協会によると、26年の民間ジェット機の運航予測は、MRJクラス(60~99席)が5426機と06年実績の約5倍に達し、ボーイング747など大型機をしのぐ。中国やロシアなど新興市場での需要が活発化するとみられている。
MRJは新型エンジンと機体の軽量化で他社の小型機に比べて燃費を約3割改善するのがセールスポイントだ。主翼やフラップの形状変更で騒音も抑えた。三菱重工は、燃料費が高騰する中、MRJの燃費性能など高い技術力をアピールし、海外での受注競争を勝ち抜きたい考えだ。
官公庁相手の販売手法から脱皮できるのか
だが、小型機市場は、カナダ・ボンバルディアとブラジル・エンブラエルの実績のある2社がほぼ独占する。市場の成長を見込んで新興メーカーも営業を積極化。中国航空工業は、安い人件費を武器に価格を他社より2割程度安くしており、既に100機程度の受注を獲得した。ロシアの大手軍用機メーカー、スホイも新型の小型旅客機を開発した。
三菱重工は1000機の受注を目指すが、採算ラインは350機程度とされる。佃社長も「10年間は赤字の苦しい時代が続く」と認める。また、三菱重工はこれまで戦闘機やロケットといった官公庁相手の販売が中心で、民間機のノウハウは乏しい。販売後の機体の維持管理などサービス体制をどこまで確立できるかも焦点で、視界がスカッと晴れているわけではない。