学校裏サイトで相次ぐ生徒中傷をチェックしようと、サイバーパトロールを強める学校が増えている。ところが、サイトにパスワードがかかっていたり、サイトそのものがコロコロ変わったり。サイトへの削除依頼で逆に教師が中傷されるケースもあり、学校側では対応に苦慮している。
削除依頼の教師が中傷される
学校裏サイトを紹介している「全国学校サイトRANK」
ある横浜市立中学校の生徒指導担当の男性教諭(43)は、学校や自宅で、学校裏サイトでの中傷を見つけるサイバーパトロールをしている。同僚や他の学校と連携しながらで、週に1、2回のペースだ。
2008年初めのある日のこと。男性教諭は、裏サイトで中傷された生徒のため、サイトのスレッドに削除依頼を書き込んだ。ところが、逆に自らがサイト上で中傷されることになった。
「何でこんなところに書いているのか」「意味ないだろ」
依頼は無視され、1か月後になってやっと中傷の書き込みが消えた。この男性教諭は、「生徒のことを思って消したい一心なのに、どうしてこんなこと書くのかな」とやり切れない気持ちを打ち明ける。
こうしたサイバーパトロールは、横浜市立中学校では各校で自主的に行われている。同市教委によると、各校で行われ始めたのは、06年に入ったころから。その年1月31日に、ある裏サイトに「喧嘩上等」と書き込まれ、学校間で生徒同士がけんかを始めようとしたことがあった。それが学校に伝わり、未然に防いだことがきっかけで、サイバーパトロールしようとの機運になった。
その後、教師が生徒の代理として削除依頼をサイト管理人などに出すようになった。神奈川県警から06年10月25日、裏サイト対応マニュアルの配布を受けたのがきっかけだ。そして、08年2月の市教委調査で、145校の市立中学校のうち削除依頼の経験があると答えたのは47%に上った。
ところが、前出の男性教諭のように、削除依頼した教師が、逆にサイト上で中傷されるケースも出てきたのだ。横浜市教委の小中学校教育課では、「生徒が管理人をして、自ら先生への中傷を書き込む場合もあるようです。削除依頼は、プロバイダー責任制限法で規定がありますが、今後は教育長名などでも法的に可能かどうか検討していきたい」と話す。
パスワードやID認証が必要な裏サイトも
学校裏サイトでのいじめが社会問題化し、横浜市立中学校のようなサイバーパトロールは全国的に広がっている。しかし、裏サイトへの削除依頼ばかりでなく、パトロールそのものも困難を極めているようなのだ。
三重県伊賀市教委では、2007年7月から市立中学校全12校で裏サイトのモニタリング事業を行っている。教師に認識を深めてもらい、取り組みを通じてネットいじめを抑止するのが狙いだ。07年度は、2校を1組にして、2校の教師が1か月交代で市教委提供の携帯電話でサイトを毎日のようにチェックした。
学校裏サイトには、学校名など特定される情報がほとんどない。そこで、提案者で「反差別・人権研究所みえ」事務研究員の松村元樹さんから現在、24のアドレスを教えてもらっている。が、それでも困難が多い。伊賀市教委の学校教育課では、「サイトの管理人は、特定されるのを嫌って、サイトのアドレスをコロコロと変えるんですね。中傷される生徒も、個人名を特定しにくくなっています。裏サイトは、知られると裏サイトではなくなりますからね」と嘆いた。
松村さんも、巧妙に監視の目から逃れようとする裏サイトに悩まされている。
「パスワードやID認証が必要なSNSの形にしている裏サイトが、結構多いんですよ。それも細分化して、同じクラスなどの仲良しグループ4、5人でやっているケースが多いので、対応がしにくくなっています」
最近は、見えにくい裏サイトを発見・監視するサービスをしているガイアックスといった民間会社に委託するケースが見られる。また、「全国webカウンセリング協議会」では、08年4月から、裏サイト発見や書き込み削除の方法を教師に教える講座を始めた。
もっとも、松村さんは、「子どもたちに直接聞くのが、一番効果的で早い」と指摘する。そのうえで、次のように語る。
「ネットいじめも、学校現場での人間関係の崩れが出発点です。『苦しい思いをしてんのに、あんな先生じゃいやや』と明かす子も多い。先生もまず子どもたちとの信頼関係を作らないと無理です。でないと、モグラたたきに終わるだけでしょう。裏サイトを突き止めるのは、ほんの一部の取り組みであり、先生方には子どもたちを注意深く見てくれと話しています」