最近では、アルコールについて心神喪失を認めず
刑法に詳しい板倉宏日大大学院法務研究科教授は、歌織被告の判決見通しについて、「たぶん無罪だと思います」と報道同様の見方をした。その理由について、板倉教授は、「被告人質問で、(歌織被告は)意味不明のことを述べていましたし、裁判官も検察の再鑑定請求を却下しているからです。刑法39条では、心神喪失と裁判官が判断すれば、無罪になります」と述べた。
一方で、裁判官は必ずしも鑑定医の意見に拘束されないともいう。「『心神耗弱』と判断することもありえます。その場合、死刑を言い渡すことはできず、一番厳しい刑でも無期懲役です。私の考えでは、懲役7年ぐらいの判決になるのではないかと思います」
いずれにせよ、精神異常が認められれば、無罪か減刑になる。ネットなどでは、こうした判決に異論が出ているが、板倉教授は、「心神喪失のときは無罪が原則、というのが大方の法学者の見解です。善悪の判断がつかず、行動をコントロールできない場合は、刑事責任は問えないと考えるからです」と話す。
そんな中、一部で刑法39条に異議を唱える研究者らはいる。九州工業大学の佐藤直樹教授(刑事法)は2006年6月、「刑法39条はもういらない」との著書を出版した。また、ジャーナリストの日垣隆氏は5年前、心神喪失を口実にした例を暴くノンフィクション「そして殺人者は野に放たれる」を書いている。
歌織被告以外でも、最近、心神喪失について議論が巻き起こっている。例えば、名古屋市のイラン人塗装工(34)が3月17日、岐阜地裁から「覚せい剤の影響で心神喪失の状態にあった」と強盗などについては無罪を言い渡されたケースだ。ただ、板倉教授は、「この場合は、『何も覚えていない』からといって無罪にするのはおかしいと思います。責任能力は完全にあると考えられるからです。むしろ珍しいケースで、最近では、厳しい世論を考慮して、アルコールについても心神喪失を認めなくなっています」と指摘する。
裁判員制度が導入されれば、ネットで見られる市民感情などを反映して、裁判の流れが変わるのだろうか。
板倉教授は、「まだ分かりませんが、心神喪失などの判断について厳しくなるかもしれませんね」と話した。