地球規模の気候変動を招いている二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの削減が日本でも緊急課題になるなかで、CO2を「現実」に減らしていく取り組みとして日本の省エネ技術が注目されている。エネルギー資源の少ない日本だからできる、省エネ化や高効率化の技術を、日本の企業は積極的に開発途上国などに「輸出」し、地球全体のCO2削減に貢献しようとしている。日本国内でがんばってCO2を削減しても、開発途上国の工場でモクモクと煙を出していれば地球環境は何も変わらないからだ。
資源不足が生んだ「高効率」の技術
吐き出されるCO2の削減に、日本の環境技術が貢献している(写真はイメージ)。
日本経団連がまとめた「地球温暖化防止対策事例集〈2006年度版〉CO2排出削減900のヒント」によると、日本の最終エネルギー消費の約11%を占める鉄鋼業は、第1次オイルショック以降、1990年度までに約20%の省エネを達成。さらに2003年度には、省エネ施設の導入や操業改善などによって90年度とほぼ同レベル(1億1000万トン)の粗鋼生産量を維持しながら、エネルギー使用量を5.7%削減している。たとえば、ある工場では燃料として使用するコークスを篩い分ける設備に2億1500万円を投じて導入。これによって燃料工程が安定し、年間2900トンのCO2の削減効果につながった。
また、板ガラス製造の旭硝子の京浜工場は2001年に、空気中に含まれる窒素などを取り除き、燃焼に必要な酸素だけをガラス溶解炉に送り込む「全酸素燃焼法」を導入。04年のガラスの単位生産あたりのCO2排出量を、導入前の2000年と比べて約30%削減するなど、日本企業はこうした、さまざまな製品の生産過程で地道にCO2の削減に取り組み、実績を上げてきた。
かつて日本の高度経済成長期を支えた重厚長大産業は、省エネや高効率化の課題をクリアすることが「生き残り」のキーワードだった。オイルショックなどを契機に、新たな技術を開発したり磨きをかけたりしながら、結果的に現在の「環境技術」を手にした。
いま多くの日本企業がこれらの地球温暖化防止につながる技術を活用し、省エネ技術を海外に移転する取り組みを広げている。
CO2を現実に減らすには技術の「輸出」が大事
京都議定書を批准していない米国や、CO2の削減義務を負わない中国やインドなどが地球温暖化の問題に取り組むAPP(クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ)という枠組みがある。2006年1月に設立され、じつは日本もこれに参画している。発電および送電、鉄鋼、アルミニウム、セメント、石炭鉱業、よりクリーンな化石エネルギー、再生可能エネルギーと分散型電源、建物および電気機器の8つのタスクフォースで組織され、業界ごとにCO2の削減策を具体的かつ自発的に進めていくことを提案し、実践している。
たとえば、日本の電力業界は過去2度のオイルショックの経験から、火力発電所のムダを省き、熱効率を上げる努力をしてきた。それにより、「30~40年経っても、熱効率が変わらないのは日本だけ」と、他の先進国も驚くような高い技術を維持している。この技術をAPPのプロジェクトを通じて、実際に開発途上国の火力発電所を訪れ、各国の技術者とともに発電所の熱効率の改善について議論している。熱効率の悪いインドや中国といった国々で優れた日本の技術を生かしてもらって、現実のものとしてCO2を削減しようというのだ。
このような取り組みは「セクトラルアプローチ」と呼ばれ、分野別に優れた技術を世界で共有する取り組みとして進められている。日本の地球温暖化防止の技術は海外に「輸出」されていて、成果をあげているというわけだ。いま世界中がCO2削減に取り組んでいるが、日本の技術で目に見える削減を行うことが日本の存在感を示すことにもなりそうだ。