建設業から農業への「転身」が増えている。農林水産省によると、農業への参入事例は88件(2007年9月現在、農業生産法人以外の法人の参入)で、2006年9月と比べて29社、05年5月と比べると51社も増えた。背景には、農業従事者の高齢化が進んで休眠状態の農地が増えたことがあり、農業の担い手不足を公共事業の削減に苦しむ建設業者が補っている形だ。
他業界からの農業参入が緩和されたのがきっかけ
農業への参入は増えるのか(写真はイメージ)
他業界からの農業参入はこれまでかなり難しかった。農業生産法人の設立や農業特区に限られていたからだ。2005年からは市町村が認めれば参入できるようになった。05年度からは「強い農業づくり交付金」の支給や、同9月からは株式会社による農地リース方式での農業参入も認められた。現在は基本的には希望すれば、「どこでも、誰でも」農業はできる。
北海道で農業をはじめて5年になる橋場建設の橋場利夫さんは、「農家のうち、約7割は後継者がいないなどの理由で耕作放棄の可能性があります」と話す。橋場建設の場合も、そういった跡継ぎのいない農家の耕作地を買ったり、借りたりしながらトマトやトウモロコシをつくってきた。
建設業界で、このような「農業参入」は07年9月で88社の事例がある。なかでも北海道や長野県、鳥取県といった、これまで公共事業に支えられてきた地域で目立つ。公共事業が削られて経営が苦しくなった結果の転進で、いわば「食べるため」の転換であったり、経営の多角化だったようだ。
全国的に、数字のうえでは伸びている建設業の農業参入だが、微妙に「地域差」があるようだ。例えば石川県。地元紙の北國新聞(08年2月26日付)は、「関心高いが実績ゼロ 建設業の農業参入、道険し?」の見出しで、建設業の農業参入が進んでいないと指摘した。
農水省は「(石川県が)まだ1社もないことは確かです。ただ北陸だから少ないということではないと思いますよ。新潟県は多いほうですから」と話す。「1社でも(事例が)あれば増えていく」ともいう。
「確実にもうけが出るとは限らない」のがつらい
まったく別の「産業」へ出て行くのだから、不安は大きい。建設業の農業参入の先例となった、前出の橋場さんに寄せられる質問の多くは、「販路の確保」という。しかし、橋場さんは「問題は販路ではなく、価格。とにかく安定しない」という。
たとえば、3年前(06年)に台風が北海道を横断したとき、そばが収穫できず高騰したのに、07年は暴落。「建設業は1か所で採算が合わなくても別の現場があるが、作物は1年1作。失敗したらそれで終わり」と、リスクの高さを強調する。
収穫を増やそうと思って耕作地を広げるにしても、「確実にもうけが出るとは限らない」のがつらい。それどころか、「(参入しても)まず5年は絶対にもうからない」と言い切る。
「わたしはいきなり大きくやってしまったが、小さく、勉強しながら少しずつ進めていけば、とは思います。農業はやってみると楽しいもの、おもしろい仕事であるとはいえます」(橋場さん)。それは確かにしても、2006年度に39%にまで落ち込んだ食料自給率(カロリーベース)を押し上げていくような馬力はありそうにない。