青少年保護を目的に総務省が「有害サイトアクセス制限」を携帯電話各社に要請したことで、健全なサイトにまでもアクセスできなくなるケースが頻発している。今度は政府与党・自民党の携帯サイトや自治体の災害・防災情報サイトが見られないという異常な事態が指摘された。
埼玉県の「危機管理・災害情報」サイトもNG
フィルタリングで一部ユーザーがブログやSNSにアクセスできない?
総務省が2007年12月10日に電気通信事業者協会とNTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、ウィルコムに行った要請を受けて、携帯電話各社は、18歳未満の利用者に対して親権者が不要としない限り原則フィルタリングを設定することになった。08年1月~2月にかけて各社は総務省の要請に沿ってフィルタリングサービスの強化を推進し始めた。
フィルタリングとはアダルトサイトなどの「有害サイト」へのアクセスを制限するサービスのことだが、総務省の要請があってからというもの、健全なサイトにまでもアクセスできなくなる「珍現象」が起こり、頭を抱えるケースが相次いでいる。
埼玉県が設置しているサイト「危機管理・災害情報」が見られないといった問い合わせが県庁に寄せられ始めたのは08年1月ごろから。同サイトでは、防災対策などの情報を書き込むブログの形を取っており、フィルタリングで「有害サイト」に分類され、アクセス不能になったからだ。
県は緊急情報を発信するケースも想定して同サイトを開設しているため、システムを提供している楽天に改善を要望したが、フィルタリングを設定しているのは携帯電話各社であるため、解決策は見えていない。埼玉県庁広報課は「解決は難しい。想定外の事態だった」と話している。
皮肉なことに、このフィルタリングサービス促進の動きは、政府与党である自民党の携帯電話向けサイトを一部の未成年者が閲覧できない事態をも生んでいる。
こうした「弊害」は携帯電話向けのコンテンツを提供している企業にも大きな影響を与えている。
10代のユーザーに圧倒的な人気を誇っているゲーム・SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)サイト「モバゲータウン」を運営するディー・エヌ・エー(DeNA)の株価は、総務省の要請を受けて急落。「モバゲータウン」へのアクセスが制限され、業績が悪化するのではないかという懸念が、同社に大きな打撃を与えた。
NTTドコモは改善策の検討を開始
現行のフィルタリング制度は、携帯電話事業者によって「有害サイト」の分類は異なるものの、SNSや掲示板サイトは双方向のコミュニケーションがあるとして、総じて「有害サイト」としてアクセス制限の対象になっている。政治団体などもこうした規制の対象になっているため、自民党サイトへのアクセスも「有害サイト」として制限されるというわけだ。
NTTドコモは、こうした一律的な規制に対して利用者が制限範囲を決める方式を検討し始めたが、「やり方などは、まだまだ(検討が)始まったばかりなので分かりかねる」(広報部)という。
あまりにも一律的なアクセス規制に対し、業界団体のモバイル・コンテンツ・フォーラム(MCF)は第三者機関を2008年3月末までに設立し、健全な携帯電話サイトを認定する基準を策定し、携帯電話会社に受け入れを働きかける予定だ。
MCFの岸原孝昌事務局長はJ-CASTニュースに対し、
「現行のフィルタリングは0か100しかない。総務省は青少年保護のためにフィルタリング強化を要請したというが、まずフィルタリングありきでは、青少年のリテラシーが教育されず、結果的に青少年保護になっていない」
と指摘。SNSやブログサービスなどで、健全な携帯電話サイトを認定するとともに、未成年者に対してIT教育を義務化するなどしてリテラシーを高めることが必要だ、と説明している。