「日本は児童ポルノの発信源」といった国際的な非難をきっかけに施行された「児童買春・児童ポルノ禁止法」が、あらたな局面を迎えつつある。自民党が、児童ポルノの所持そのものを禁止する方向で検討を進めているほか、ユニセフ協会は、アニメやゲームソフト、18歳以上が子どもを演じたものも規制の対象に含めるように求めるキャンペーンを始めた。そんな状況に、一部では反発の声も上がり始めている。
不用意にダウンロードしてしまった時も危ない?
日本ユニセフ協会では、規制強化を求める署名をウェブサイトで呼びかけている
そもそもこの「児童買春・児童ポルノ禁止法」は、1996年に初めて開かれた「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」で、日本が「児童ポルノの一大生産・輸出国であるにもかかわらず、対策を取っていない」と指摘されるなど、国際的な批判が高まったことを背景に1999年に議員立法で成立。児童ポルノを「18歳未満の子どもの裸や性行為などを記録した写真や映像で、性欲を刺激するもの」と定義した上で、児童ポルノの販売や製造、「譲渡や販売目的」での所持を禁じている。違反すると、最高で5年以下の懲役または500万円以下の罰金、またはその両方が課せられることになっている。
この法律による規制を強化しようという流れが、最近になって高まっているのだ。自民党では、08年2月に、目的にかかわらず、児童ポルノの所持そのものを禁止する「単純所持禁止」を目指す小委員会を設置。具体的に検討を進めており、超党派で今国会への提出を目指している。「単純所持」をめぐっては、04年にも禁止が検討されたが、不用意にダウンロードしてしまったり、迷惑メールなどで一方的に送りつけられてきた場合も摘発の対象となる可能性があるほか、
「捜査権の乱用を招く」
「表現の自由を侵害する可能性がある」
といった指摘があることから、結局見送られた、という経緯がある。ところが、
「事態は深刻化しており、前回(04年)の改正時とは状況が違う」(小委員会トップの森山真弓元法相)
として、規制強化を進めたい考えだ。
さらに、07年9月に内閣府が行った世論調査では、「単純所持」について聞いた際に69.6%が「規制すべき」、21.3%が「どちらかと言えば規制すべき」と回答。「規制に賛成」という声が圧倒的で、世論がこの規制強化を後押ししている面もあると言えそうだ。
「単純所持禁止」以外にも、規制強化の動きが出ている。日本ユニセフ協会が08年3月11日、児童ポルノに反対する「なくそう!子どもポルノキャンペーン」を立ち上げ、規制強化を求めるネット署名への呼びかけを始めたのだ。インターネット業界では、マイクロソフトやヤフーも賛同している。キャンペーンでは、「単純所持禁止」以外にも禁止対象として「準児童ポルノ」という用語が新たに登場。これが一部で波紋を呼んでいるのだ。
18歳以上の人物が児童を演じる場合も規制対象
「準児童ポルノ」は、「被写体が実在するか否かを問わず、児童の性的な姿態や虐待などを写実的に描写したもの」と定義され、具体的には「アニメ、漫画、ゲームソフトおよび18歳以上の人物が児童を演じる場合もこれに含む」のだという。
そうなると、「18歳以上の女性が中高生を演じたわいせつビデオ」はもちろん、直接的な被害者が発生しないはずのゲームキャラも規制対象に含まれ、所持しているだけで処罰される、と読める。
ネット上では早速、今回の動きに反対する動きが噴出している。2ちゃんねるでは「『熟女モノ』以外は児童ポルノだと認識されてしまうのでは」という声が多数出ているほか、最大手SNS「ミクシィ」でも「準児童ポルノ」に反対するコミュニティーが立ち上がっており、現在流通しているアニメが取り締まられることを危惧する声であふれている。具体的には、平たく言えば
「自分が好きな作品内のキャラクターが性的行為をした際に、仮に成人キャラであったとしても『18歳未満に見える』というだけで『児童ポルノ』と取り締まられてしまうのではないか。被害者が全くいないのに、取り締まるのはおかしい」
といった、「今、自分が持っている作品が取り締まりの対象になってしまうこと」への危機感を表明するコミックファンの声がほとんどだ。
メディアでも、この問題を指摘する声が出始めている。特にこの問題に敏感に反応したのが、テレビでも「エキサイト新聞」として紹介されることが増えている「東京スポーツ」だ。翌3月12日の紙面では、この問題を「ロリータAV消える?!」という見出しを立てて指摘。
「童顔のAV女優がセーラー服を着て演技することも『違法』になってしまう」
とした上で、AV制作会社関係者の
「セーラー服やメイドなどのコスプレを着ただけでも、(法律に)引っかかる恐れが出てくる」
という声を伝えている。
前出のキャンペーンの発表会では、この「準児童ポルノ」についての質問に対して、主催者側が
「明らかに児童でない人の場合は(規制の)対象外になると思う」
と説明する一幕もあったが、依然として解釈の幅は広そうだ。
「子どもたちを守る」というのが最優先なのはもちろんだが、基本的な権利である表現の自由とも密接に関連するだけに、さらに議論を呼びそうだ。