在日外国人の高齢者が国民年金の支給の対象外になっている問題にからんで、月に1万円程度の「福祉給付金」の給付を行う自治体が相次いでいる。ところが、07年には最高裁が「在日外国人が年金を受け取れないのは憲法違反」との訴えを棄却したばかりで、東京小平市では「自治体の措置は根拠がなく、『特権だ』」として反発する声もあがっている。
全国で約620の自治体が給付金制度を導入
議論を呼んでいるのは、「福祉給付金」と呼ばれる制度。国民年金に加入できず、「無年金状態」の外国人高齢者に、自治体が月1万円程度を支払うもので、全国で約620の自治体がこの制度を導入している。
この制度が始まった経緯は、少々複雑だ。1982年の国民年金法改正で「国籍条項」が撤廃され、在日外国人でも年金に加入することができるようになったが、35歳以上の外国人と20歳以上の障害者は、その対象から外れていた。86年の改正では、当時60歳未満の外国人には救済措置が執られたが、60歳以上の人と障害者は、対象外とされた。このため、1926年4月以前に生まれた在日外国人は、国民年金に入りたくても入れず、「無年金状態」になったとされる。
このような状況に対して、在日韓国・朝鮮人団体から、救済を求める声が相次いでいた。制度として特に「在日韓国・朝鮮人に給付する」と決まっている訳ではないが、制度の恩恵を受けているほとんどが在日韓国・朝鮮人だ。
ところが、この制度の根拠を覆すとも言える判決が最高裁で下り、反発の声が高まっているのだ。07年12月25日、日本国籍がないことを理由に年金を受給できないのは「法の下の平等に反する」として、在日韓国人らが国を訴えていた裁判2件について、最高裁はいずれも原告側の上告を退けたのだ。いわば、「年金の受給資格がない『無年金状態』は違憲ではない」との判断を示した形だ。
小平市との「直接交渉」の様子をユーチューブで公開
ところが、この動きに反するとも取れる動きが、東京・小平市で起こっているのだ。判決の約1ヶ月前の07年11月27日、同市市議会は、「在日無年金高齢者及び障害者に対する救済措置を求める意見書提出について」との議案を全会一致で可決した。内容はというと、市に対して、福祉給付金制度を設けることを求めるものだ。仮に、この制度が実現した場合、支給該当者は約20人と見られている。
これに対して、「在日特権だ」として、反発の声が上がっているのだ。この件は「週刊新潮」2月7日号にも取り上げられ、同誌では
「日本人でも支給されない高齢者がいるというのに、これでは逆差別だ」
などと批判している。
制度導入に批判的な「在日特権を許さない市民の会」では、制度導入を進めようとする小平市との「直接交渉」の様子をユーチューブで公開。
同会メンバーが制度の妥当性などを問うが、市からは明確な回答が得られない様子が映し出されている。この動画が撮影されたのは、1月22日だが、半月後の2月8日に発表された予算案には給付金についての項目が含まれており、同会ではさらに反発を強めている。
同会ウェブサイトによると、「保守系」会派に働きかけ、予算案の通過を阻止したい考えだ。さらに、前出の動画の内容によると、制度が実際に設けられた場合、行政訴訟に踏み切る構えだ。
もっとも、自治体側は、「『無年金問題』は、本来は国が取り組むべき課題」とのスタンスを取るところが多く、いわば「給付金は年金とは別物」との姿勢だ。
それでは、このような地方自治体の措置は妥当なのだろうか。地方自治の財政を担当している総務省の自治財政局に聞いてみると、
「年金関係ですと所轄は厚生労働省ですし、外国人登録をするのは法務省ですし…。この問題、ちょっとどこが所轄だか分からないですね。仮に総務省が担当だとしても、統一的なコメントができるかどうかは分からないですね…」
と、逃げ腰だった。