旧大蔵省(現財務省)といえば、日本のトップエリート達が集まる場所だったはず。ところが、東大法学部から財務省を志望する学生の人数は年々減少しており、「財務省凋落」を唱える報道も相次いでいる。さらに、日本の「ビッグビジネス」からも、以前と比べるとその足が遠のいているようなのだ。その原因は、やはり「外資のカネの魅力」にあるようだ。
財務省・金融庁への就職、07年卒はたった6人
「財務省凋落」を唱える報道も相次いでいる
「中央官庁のキャリア官僚」というのは、一昔前までは、優秀な学生が目指す先としては、かなり有力だった。ところが、この10年ほどで、その様子が一変しているのだ。例えば、キャリア官僚を採用するための「国家公務員I種試験」(法律、経済、行政の文系職種)の受験者数は、1996年に2万2208人のピークを迎え、11年後の07年には約4割減の1万4058人まで落ち込んでいる。
さらに細かく見ていくと、財務省(旧大蔵省を含む)または金融庁に就職した東大法学部卒業生の数は、東京大学新聞の調べによると、1987年卒では13人だったのに対し、97年卒は10人。07年卒は6人。「東大法学部→財務省」という、かつての「トップエリートコース」でさえ、前出の「国家I種」と、ほぼ同じペースで減少しているのだ。
この傾向は、実際の採用活動にも影響が出ているもようで、財務省の08年春のキャリア採用予定数は18だったが、内々定を出せたのは16人にとどまったという。
このような「財務省凋落説」を指摘する報道が、この半年ほどで相次いでいるのだ。
例えば、「アエラ」07年7月30日の特集では、この背景を解説している。同誌によると、就職活動で一般的な「官庁訪問」で、財務省も訪問したという東大法学部4年生は、
「やはり魅力を感じられませんでした。昔の大蔵省は金融行政も持っていて、権限が大きかった。けれど、財務省になって金融部門がなくなり、経済財政諮問会議ができて予算編成も政治主導になった。周りを見ても、財務省に魅力を感じる学生は減っています」
と話し、「大蔵省時代と比べて魅力が減った」との見方をしている。
「週刊新潮」07年12月6日号に掲載された特集では、
「天下りの全廃方針が固まったことから、生涯賃金面での魅力が少なくなっているのでは」
といった分析をしている。
新入社員ボーナスが1000万円超える魅力には勝てぬ?
そうなると、必然的に、これらの東大生が目指す先は「官庁」ではなく「民間」ということになるが、ここでも異変が起きている。いわゆる「大手銀行」への就職が減り、外資系への就職が増えているのだ。
前出の東京大学新聞の調べによると、87年卒では、現・みずほフィナンシャルグループに就職したのは39人だったのに対し、97年卒は24人で07年には13人だ。現・三菱東京UFJ銀行も、それぞれ33人、21人、6人と推移している。
その一方で、ゴールドマンなどの外資系証券に進んだのは87年は4人だったのに対し、97年には3人、07年には8人と、ここ10年で急増している。マッキンゼーなどの外資系コンサルも、それぞれ2人、6人、7人といった様子で増えている。
この背景には、やはり給与水準にあるらしい。ゴールドマン・サックス社が06年12月に明らかにしたところによると、入社1年に満たない新入社員に対して支給したボーナスの額は10万ドル(1030万円)以上。キャリア官僚の場合、45歳の本省課長の場合で年収1200万円という水準なので、「トップエリート」が外資になびくのも頷ける話だ。
もっとも、破格の報酬を得られるだけあって、外資は「相当な狭き門」なのも事実。
就職情報サイト「みんなの就活日記」によると、東大法学部の学生が多く志望する企業のランキングは、1. 三菱UFJフィナンシャルグループ 2. 三菱商事 3. みずほフィナンシャルグループ 4. 日本銀行 5. 三井住友銀行、と言った具合で、官庁が含まれてない点を除けば、これまでと、あまり変わりばえがしない印象だ。やはり「霞ヶ関から外資へ」という現象が当てはまるのは、一部の「超優秀な学生」で、普通の東大法学部生には、やはり「比較的門戸の広い」大手銀行などが人気のようだ。