シンガポールの政府系ファンドの「シンガポール政府投資公社」(GIC)の不動産部門であるGICリアル・エステートは、米大手証券のモルガン・スタンレーとスターウッド・キャピタルが共同保有していた東京・目黒の「ウェスティンホテル東京」を770億円で買収したと、2008年2月26日に発表した。GICは07年春にも、米不動産投資会社のコロニーキャピタルから福岡市の複合施設「ホークスタウン」を約1000億円で買収。08年2月1日には不動産投資信託(REIT)の日本プライムリアルティ投資法人の保有比率を5.06%に高めるなど、日本の不動産市場に積極的に参入し始めた。不動産投資へのイメージは全体的によくないのに、こうしたアジアマネーの流入は今後さらに増えるらしい。
REIT銘柄、「買い」の決め手が見つからない
政府系ファンドが日本の不動産市場に進出している(写真はイメージ)
東京証券取引所に上場するJ-REIT銘柄をのぞくと、三井不動産系の日本ビルファンド投資法人は134万円、三菱地所系のジャパンリアルエステイト投資法人が119万円、オリックス不動産投資法人60万8000円の値が付く(2008年2月27日の株価)。どれもJ-REITのなかでは上場して約6年を経過する「老舗」の銘柄だが、2月19日の株価と比べると、日本ビルファンドが1万円、ジャパンリアルエステイトが6万円下落している一方で、オリックス不動産は5000円上昇した。
ちなみにGICが約5%を保有する日本プライムは東京建物系で27日の株価は36万8000円、同1000円上がっていた。上昇する銘柄と下落傾向にある銘柄が入り乱れ、「買い」の決め手が見つからないが、最近の傾向としては「3大都市圏であること、それに家賃収入に上昇の余地のある商業施設を運用資産とする銘柄が注目」(大手不動産の関係者)だという。
REIT市場にとって、改正建築基準法は歓迎すべきこと
GICのような政府系ファンドがREITに注目する理由について、REITアナリストの山崎成人氏は、「(不動産市場を冷やしたといわれる)改正建築基準法のような話は、REITが投資する建物の質が高まることになるので本来は歓迎すべき内容です」と、という。
さらに、「日本ではREITと株式投資とを同じ感覚で見ているようですが、海外は投資商品の性格に応じた投資判断をします。REITを配当金重視のインカム型投資商品だと考えれば、配当率が上がれば投資機会がでてくると考えるわけです」と説明する。
REIT市場はすでに取引シェアの50%を海外投資家が占めている。最近の動きとしてはサブプライム問題の影響で信用収縮を起こしている欧米の金融機関に代わって、中東やアジアの新興国マネーなどが有望な投資先を物色。政府系ファンドに限っても、すでに2007年秋ごろから日本の現物不動産やREITに注目していて、現在は選別段階にあるようだ。
景気の後退気配が漂うことで国内投資家の投資マインドが冷え込み、投資マネーがより安全な投資に向かう。こうした現状の流れは、株式投資に比べてリスクの低いREITが有利になる、という見方もできないわけではない。