米国の名門オーケストラ、ニューヨーク・フィルハーモニック(NYフィル)が北朝鮮・平壌で初めてコンサートを行った。会場では米国国歌も演奏され、拍手が起こるなど「友好ムード」が演出されたとの見方もあるが、このコンサートのスポンサーは著名な日本人女性という意外な背景もあった。
公演費用は2000~3000万円?
NYフィルのHPでは「平壌公演」をトップページで告知している
NYフィルは2008年2月26日夕、平壌の東平壌大劇場で公演した。ドボルザークの交響曲第9番「新世界より」、朝鮮民謡「アリラン」などのほかに、米国国歌「The Star-Spangled Banner」も演奏。米国国歌演奏の後に会場から拍手が沸き起こるなど、これまでの米朝関係からは想像できない友好ムードが漂った。ニューヨーク・フィルハーモニックによれば、米国、北朝鮮のほか韓国、中国で生中継された。金正日総書記は姿を見せなかった。
東亜日報の社説は「朝鮮戦争以来、半世紀が過ぎてもなお敵視し続けていた米朝間の和解の可能性を知らせる『事件』に違いない」と述べるなど、一部メディアでは「友好ムード」「和解の可能性」も報じられているが、核問題をめぐっては、6者協議で決まった北朝鮮が核計画の申告を拒むなど、米朝関係はまだぎくしゃくしている。
ライス国務長官は2008年2月22日に記者会見では「公演は良いことだ」などと述べていたが、26日の米中外相会談では、北朝鮮の全ての核計画の申告を履行するよう働きかけていくことで中国側と合意するなど、微妙な駆け引きが続いている。
様々な憶測を呼んでいる今回のNYフィルだが、公演のスポンサーは日本人女性のチェスキーナ・永江洋子氏だった。
韓国の一部報道によれば、チャーター便の手配などについては、アシアナ航空やオーケストラを生中継する韓国メディアMBCなどが資金を出している。詳細は明らかにされていないが、公演費用は2000~3000万円と言われており、その全額を永江氏が支援した模様だ。
ヴェネツィア在住の富豪で、オーケストラのパトロン
永江氏はイタリア・ヴェネツィア在住の富豪で、オーケストラのパトロンとして有名だ。永江氏はハープを学ぶために渡伊し、大富豪のレンツォ・チェスキーナ氏と出会い結婚。1989年の夫の死後、約3000億リラ(当時300億円)とも言われる遺産相続をめぐって、起訴されたが、同年に無罪判決が出た。その後は、その遺産をもとに音楽家への支援を続けている。
今回のNYフィルの平壌での公演について、永江氏にはどのような意図があったのだろうか。
2008年2月26日のニューズウィーク(電子版)は、同誌に対して永江氏が「音楽はユニークな言語。私たちは変化と友好を演出するつもり」と述べたほか、NYフィルの訪問が米中の友好と同じようにことが進むか分からないが、いずれにせよ「鍵は接点を見出すことだ」と述べた、と報じている。
TBSの報道番組「筑紫哲也のNEWS23」でも、ヴェネツィアにいる永江氏をインタビューしており、そのなかで永江氏は
「やっぱり音楽はもう国境がない」
「いい方に向かうといいなと思ってるんですよね~」
と話している。永江氏にとって、「音楽に国境がない」というのが持論であるようだが、彼女が北朝鮮の現状についてどのように考えているのかは不明だ。