社会保険庁が年金電話相談の派遣職員に時間当たり1人5500円の単価を計上していたことについて、「価格の設定が不明瞭だ」との批判が出ている。社保庁では、研修費や交通費などを含んでいると釈明するが、委託業務の落札を一般競争方式にしなかったことがこうした批判を呼ぶことにもなった。
「業者に指示きちんとできていなかった」
週刊文春も、2008年2月21日号の記事で年金派遣職員問題を取り上げた
社会保険庁は2007年12月17日、宙に浮いた年金記録の持ち主を確認しようと「ねんきん特別便」の発送を始め、専用ダイヤルによる電話相談業務を行っている。そのために総額18億円の経費を計上し、相談に当たる予定の約1200人のうちまず約400人を民間企業2社に08年1月21日から3月末まで業務委託した。そのうちの1社の「もしもしホットライン」(東京・渋谷区)に支払う派遣職員1人の単価が5500円と高額だったことから、民主党の蓮舫参院議員が、08年2月4日の参院予算委員会で取り上げて問題になった。
社保庁企画課によると、相談業務は、一般競争入札方式にかけられたが、落札は、価格ばかりでなく内容もみる総合評価方式で行われた。その結果、派遣職員の業務のうち管理者の業務が「もしもしホットライン」5500円、「KDDIエボルバ」(東京・新宿区)2900円、スーパーバイザーの業務が前者3200円、後者2300円、などと落札された。業務全体を見渡すのが管理者で、オペレーター10人をまとめるのがスーパーバイザーだという。
同課では、2社で時間単価の差が出たことについて、「もしもしホットライン」の単価には、研修費が含まれていることを挙げる。それを引くと、管理者業務の場合、「KDDIエボルバ」と同程度の3000円程度になると主張する。さらに、2社の単価には、交通費、社会保険料の事業主負担分が含まれているという。ただ、「私どもが入札の説明で業者に指示すればよかった。きちんとできていなかったので、価格の内訳の違いがでてきてしまった」と非を認めた。
このような時間単価について、専門家はどうみるのか。全国社会保険労務士会連合会の広報担当者は、次のように指摘する。
「時給がはっきりしていないのでなんとも言いにくいですが、民間のコールセンター事業から見ると、世間の人は高いと思うのではないでしょうか。われわれ年金のプロよりも高いのではないかとの印象も受けます」
落札を一般競争方式にすべきだったの声
関係者によると、「もしもしホットライン」と「KDDIエボルバ」には、ここ5年ぐらいは、厚労省や社保庁の課長補佐以上の天下りは確認できていないという。社会保険庁企画課でも、「2社にOBはいません」と答えている。
とはいえ、なぜ落札を一般競争方式にしなかったのか。
同課では、「委託した仕事をきちんと分かってやってもらわないと困ります。ですから、価格面ばかりでなく、業者の能力や実績といった品質面も合わせてみる必要があると判断しました」と説明する。
品質面が重要なら、派遣職員でなく、社会保険労務士といった年金のプロを雇うべきではなかったのか。実際、落札された時間単価は、プロでも雇えるという価格だからだ。
これに対し、同課では、「この業務は、電話での問い合わせに対し、年金全般を知っていなければいけないわけではありません。(特別便についてではない)『ねんきんダイヤル』には、スキルの高い人にお願いしています」と答えるのみだった。
前出の関係者は、
「高度の専門性を求められる仕事ではないのなら、価格面だけで落札すべきだった。仕様書などで仕事の内容をきちんと示せば、価格が安いところでも十分だ。時間単価が同じなら、プロにやらせるに越したことはなかった」
と批判する。全国社労士会連合会の広報担当者も、「社労士がやるほどのものではない、ということではないと思います。プロがオペレーターの後ろについて対応する方が、業務が効率的でもあるからです」と話す。
ところで、社保庁では、舛添要一厚労相の肝いりで、近く社労士らのプロに業務委託し、電話ではなく対面での「特別便」相談を実施するという。3月末まで行う予定だが、電話相談が「高い」と批判されただけに、果たしてこの場合の時間単価がいくらになるのか注目を集めそうだ。