毎年正月に行われる大学対抗男子駅伝大会「東京箱根間往復大学駅伝競争(箱根駅伝)」。テレビ放送の視聴率が高い同大会への車両提供について、ホンダが5年間の契約延長を勝ち取った。ホンダは2004年から2008年大会までの5年間、大会の協賛会社として先導車や監督が乗る伴走車(大会運営管理車)、救護車などを提供してきた。その座をトヨタ自動車が狙っていたが、ホンダは従来よりも1年近く早い時期に主催者の関東学生陸上競技連盟との契約更新を済ませた。
トヨタがメーン車両提供に動く
09年大会ではホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」が活躍する見通しだ
正月に開催される知名度の高いスポーツのなかで、車の宣伝効果が高い大会と位置付けられているのが、群馬県で行われる実業団対抗男子駅伝大会「全日本実業団対抗駅伝大会(ニューイヤー駅伝)」と箱根駅伝だ。このうち箱根駅伝では、テレビに映る機会の多い先導車や伴走車などのメーン車両をホンダ、その他の車はトヨタが提供してきた。
ホンダが箱根駅伝への車両提供を始めたのは2004年の大会から。先導車の燃料電池車をはじめ、ミニバンや新型車など20台以上の車両を毎回提供してきた。2003年大会以前に車両提供を行ってきたのは三菱自動車。自動車メーカー各社の宣伝担当者たちには、箱根駅伝は三菱自動車の神聖領域だ、という考えが浸透していた。
ところが三菱自動車は、車両提供契約の更新時期とリコール隠しの不祥事発覚で社内が揺れていた時期が重なった。それまで、車両提供企業の募集は大会前年の10月頃に決まっていたが、三菱自動車は社内のごたごたが続いて応募に間に合わなくなり、その間隙を縫ってホンダは2003年10月に応募して2004~2008年の5年間にわたる車両提供契約を結んだ。
当時、このホンダの車両提供契約について、箱根駅伝への車両提供で長期間の実績があった三菱自動車に同情する学生や学生OBも多かった。ホンダは三菱自動車から契約を奪った悪者とされ、ホンダの契約終了後の2009年大会からは、車両提供を三菱自動車に戻そうという声もあった。また2004年大会の番組スポンサーに三菱自動車が付いたこともあり、テレビ中継ではできるだけホンダ車を映さないようにすることが内々に取り決められた。
その後、三菱自動車は2009年以降の車両提供を目指していたが、経営再建から再生へと向かう道筋のなかで、経費削減の観点から箱根駅伝の協賛企業復帰に消極的になってきた。そこで2009年大会以降のメーン車両の提供企業の座を獲得しようと動いたのがトヨタだ。
ホンダは2008年秋に発売する燃料電池車を先導車に使用?
車両提供のメーン企業がホンダに切り替わったことをみて、トヨタは大会の運営協力会社となった。ホンダの国内販売車種にトラックが無かったこともあり、トヨタはカメラマンが乗るハイブリッド車などの車両提供を行ってきた。さらにトヨタの子会社が運営する東京・池袋の大型展示場であるアムラックス東京で、箱根駅伝の写真展を開催して関東学生陸上競技連盟との関係強化を進めてきた。
2009年大会以降のメーン車両の提供は、三菱自動車が断念する見通しであったことやトヨタの動きの活発化などにより、トヨタがメーン車両の提供契約を結ぶとの予測が高まっていた。そうした中で、ホンダは契約延長に向けて活発に動いていた。2009~2013年大会の車両提供企業の募集は2008年10月頃と思われていたが、2008年大会が開催される前の2007年12月に2009年大会以降の契約を結んだのだ。
ホンダの契約更新はトヨタにとっては寝耳に水の話。視聴率が高く、環境性能の高い車を訴えるには格好の場である箱根駅伝で、トヨタはメーン車両にハイブリッド車を揃えてトヨタ車の環境性能をPRするつもりだった。その夢は2014年大会以降へと持ち越された。
トヨタをライバル視するホンダの関係者たちの喜びようはものすごい。ホンダは2009年大会で、2008年秋に発売する燃料電池車「FCXクラリティ」を先導車に使用することを考えている。FCXクラリティのテレビでの露出を増やし、ホンダの環境イメージを高める狙い。ハイブリッド車の販売でトヨタに敗れたホンダだが、ハイブリッド車の先にある燃料電池車を強力にアピールする場は、引き続き確保したわけだ。