観光地でサルが人間の食べ物を奪ったりする「猿害」が問題になる中、観光地のホテルが「猿害被害」を報じるテレ朝番組に対して「やらせ」だと噛みついた。ネット上ではこれで騒ぎが急速に拡大したが、ブログを書いたホテル側は突然書き込みを削除、「報道関係者にご迷惑をおかけした」と謝罪文を掲載した。テレビ局側も疑惑を全面否定しており、いわば一般人ブログが「やらせ」を「捏造」してしまった形だ。
ブログの読者に「やらせ」情報提供を求める
「やらせ説」を唱えたブログの記事は削除された
発端は、日本有数の「スキー場地帯」として知られる志賀高原(長野県下高井郡山ノ内町)にあるホテルが設置しているブログの記事だ。2008年1月20日、「TVやらせ猿」とのタイトルで、小型ビデオカメラを持った人物が、車の上に載っている様子を撮影した写真が掲載されたのだ。本文には、
「今シーズンに入り始めて(原文ママ)猿が来ました。昨日まで1匹も来ていません。マスコミが連れて来ました。やらせです。!!みんな迷惑しています。明日から味をしめて毎日来ます」
とあり、テレビクルーがサルを連れてきた、と断じた。さらに、
「この場面 TV放映したら教えて下さい。そのテレビ局 告発致します。媒体に録画していただけると有難いです。撮影の模様とカメラマン、音声の顔写真、撮影済みです」
とも書き、ブログ読者に情報提供を求めたのだ。2月11日になって、コメント欄に
「2/11(月)、昼のテレ朝系番組でスキー場に猿…ということをやっていて、その舞台は志賀高原と渋温泉でした」
との書き込みが登場。ホテル側も、コメント欄で
「情報有り難うございました。 環境省 野生動物保護管に告発いたします」
と応じた。
実際のところ、「やらせ」は存在したのだろうか。2月11日のテレビ朝日の番組を確認すると、「スーパーモーニング」「ワイド!スクランブル」の2番組で、志賀高原での猿害について取り上げられている。
いずれも、サルがホテルの部屋に侵入して食べ物などを奪っていく様子が映っているが、番組によってレポーターも、使用されているカットも違い、別々に取材された可能性も高い。ただ、「スーパーモーニング」のレポートでは、取材日が1月20日であることが明示されており、ホテルのブログでは、この取材が非難の対象となっている可能性が高い。
「あまりにも反響が大きく、記事を削除させていただきました」
では、このホテルが主張していたように、本当に「取材まではサルがいなかったが、マスコミがサルを連れてきた」ということはあるのか。近くのホテルに話を聞いてみると、
「今年は、猿害は、まだ出てないですね。出現するサルの数も、何故か分かりませんが例年よりも少な目です。ただ、ここ1週間ぐらいで、出てきているなぁ、という気はします。ホテルとしては、実際の猿害は起きなくても、(サルを)見かけたら追い払わざるを得ないですよね」
とのことで、テレビ取材との因果関係は不明ながらも「サルの出現はここ1週間で増えている」との答えだった。一方、行政サイドから猿害に取り組んでいる山ノ内町の観光農林課では、
「猿害被害の連絡があれば、追い払うなどの対応をしますが、今年はまだ連絡は来ていません。サルの出現自体も、例年より少なめなのではないでしょうか」
とのことで、番組で強調されていたような緊迫感は伝わってこなかった。
ホテルの「告発先」と見られる「環境省志賀高原自然保護官事務所」でも、
「被害状況がタイムリーに伝わってくる訳ではない」
とした上で、告発の有無については
「担当者が出張中なので、すぐには分からない」
としている。
なお、テレビクルーの「ヤラセ説」を唱えたホテルのブログの記事は、不可解なことに、遅くとも2月13日朝の段階では削除されており、同日掲載された別の記事で、
「あまりにも反響が大きく、記事を削除させていただきました。猿の被害は事実です。がココまで問題が大きくなると私個人では対処できません」
と釈明している。J-CASTニュースでは、削除の経緯についてさらに話を聞くべく、ホテルへの取材を試みた。電話で
「J-CASTというインターネットのニュースを配信している会社で記者をしている者ですが…」
と切り出すと、記者が「ブログ」「猿」「テレビ朝日」といったキーワードを口にする前に、ホテル側は
「その件については取材をお受けしておりませんので」
と言い放ち、一方的に電話を切った。
ホテル側のマスコミ不信は以前から根強い
テレビ朝日側に対して、2月13日お昼前に取材を申し込むと、17時15分頃に返答があった。
「ご連絡いただいた件ですが、ホテルのブログをご確認下さい。お詫びが掲載されていますよ。(テレ朝側は)まったくそういうこと(やらせ行為)はしていませんので」
とのことで、いわば「事実無根」との主張だ。ホテル側のブログを確認してみると、同日15時51分に「お詫び」とのタイトルで、以下の文章が掲載されていた。
「すでに削除させていただきましたが1月20日の記事で皆様に誤解を与える表現があり大変騒がせした事をお詫び申し上げます。テレビ朝日様を始め報道各社、読者の皆様には大変ご迷惑をお掛けし申し訳ございませんでした」
ただ、ホテル側のマスコミ不信は以前から根強いようで、ブログには1月21日付けで、こんなことが書いてあった。
「取材に行って撮影出来ない訳には行きません。昨年私共の庭にバナナが束で落ちていました。今時バナナをお持ちになる、お客様いるでしようか?昨日もTVクルーのせいで、被害を受けたお客様おります。TV的には大勢のお客様が被害に合う 絵!!が必要です」
このように「映像は作り上げられたもの」との見解を繰り返した上で、
「しかしテレビクルー傍若無人でバカです。あんたはテレビ見るのが好きで見てテレビ業界に入ったかも知れないが私テレビ見ません」
との持論を展開しており、この記事はまだ公開されたままだ。