「ひぐらしのなく頃に」が殺人事件を引き起こしたのか?
――東京大学特任講師・吉田正高氏に聞く

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「ひぐらし」の根底に流れる重要なテーマとは?

東京大学大学院情報学環の吉田正高・特任講師。大学では戦後の漫画やアニメ、ゲームの歴史をたどる「コンテンツ文化史」の講義を行っている
東京大学大学院情報学環の吉田正高・特任講師。大学では戦後の漫画やアニメ、ゲームの歴史をたどる「コンテンツ文化史」の講義を行っている

――実際にゲームをやってみると、いわゆる「萌え系」の美少女キャラが出てきて、学校でのゲーム大会とか登下校中の会話とかが延々と続くので、想像したのと違ってびっくりしました。

吉田 そうなんですよ。「ひぐらしのなく頃に」の面白いところは、リアリズムのある狂気とか殺人みたいなものと、それとは全く違う日常生活というものをうまく結び付けているところです。実は、ストーリーの大半は、陰惨な事件につながるとは思えないような普通の学園生活の話です。そこでこちらの感情移入をさせやすくしておいて、終盤にそれをひっくり返していく、という構成上の面白さがあるんですよね。

――しかし、ほんわかムードの描写がある一方で、金属バットでメッタ打ちにしたり、斧を振り下ろして殺したりと、残酷なシーンも出てきますね?

吉田 そういうシーンだけ取ってしまえば、たしかに残虐だと思います。また、かわいい女の子が豹変して恐ろしい事件を起こすという「落差」が、この作品の特徴の一つだともいえます。でも、それだけではない。作品の根底に流れているテーマは、殺人を肯定するとかというのとは全く違うと思うんです。実は、この「ひぐらしのなく頃に」という作品を貫いているのは、「真実の絆」を探していくというテーマなんですよ。

――それはどういうことですか?

吉田 物語に登場する少年や少女は、それぞれ複雑な事情を抱えています。村の因習の中にどっぷり浸かっている神社の巫女さんの女の子とか、地域社会でがんじがらめになっている子とか、ほかの地域で事件を起こしてしまって引っ越してきた子とか。だけど学校では、そういう事情を仲間に言わないで、表面上だけ楽しく付き合おうとする。

   そういう上辺だけの友達関係があるきっかけで崩れて、疑心暗鬼になって殺し合うみたいな話になっていくんですが、そんな中で、お互いが自分をさらけ出していくことで「真実の絆」とは何かを探っていく。「本当のつき合い」とはどういうものか、というのを模索していく。そういう物語なんです。だから、この「ひぐらしのなく頃に」は、1980年代ごろから顕在化してきた地域社会の崩壊とか、親子関係の断絶、さらに2000年代に入って顕著になったネット社会での疎外感とかをうまく取り入れている作品だと思うんですよね。
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