北京五輪で野球日本代表監督を務める星野仙一さん(61)が、公式サイトで日本のプロ野球界に苦言を呈した。日本には大事な開幕カードがあるのに、なぜ日本で同じ時期に大リーグの開幕戦を許すのか、と噛み付いたのだ。何事も真っ向勝負の燃える男、星野さんだけに、野球界の「浮気」が許せなかったようだ。
3月に東京ドームでメジャーの開幕戦
星野仙一さんの公式サイトにある「Q&A」コーナー
米メジャーリーグ(MLB)開幕戦の日本開催は、2000年シーズンから始まった。3回目の08年は、東京ドームで3月25、26日夜に、レッドソックス対アスレチックス戦が組まれている。集客の目玉は、レッドソックスの松坂大輔投手だ。07年にMLB初挑戦でワールドシリーズ優勝を経験し、開幕戦で凱旋登板が見られる可能性がある。開幕戦は、MLB、日本野球機構などの主催だ。そのプレゲームとして、22、23日には両チームと巨人、阪神との対戦が予定されている。
開幕戦の日本開催は、メジャーにはファンを広げるビジネスチャンスだ。一方、同じ時期に、日本のプロ野球の開幕戦が開かれる。パ・リーグが3月20日、セ・リーグが同28日。それは、人気低迷が指摘される日本のプロ野球にとっては、ファンが奪われかねないことを意味する。そんな状況に、星野仙一さんが口を開いた。星野さんは、公式サイトの「Q&A」コーナーで、メジャー開幕戦を受け入れた日本のプロ野球界をこう批判した。
「問題は日本の対応です。何故唯々諾々とメジャーのプライオリティに従うのか。今年も大リーグは日本での開幕戦を組みます。確か3回目と思いますが、この時期、日本のプロ野球も開幕カードを興行するのに、なんで商売仇に試合を許すのか」
そして、プロ野球ファンが奪われるような状況を指してか、「経営権の侵害ですよ」とも述べた。こうした感慨は、2月3日夜に放送されたNHKスペシャル「日本とアメリカ」シリーズ最終回で、大リーグ経営手法を紹介する場面を見たときに深めたという。星野さんは、同じコーナーで
「いやというかうんざりしてしまい、途中で電源を切っちゃった。馬鹿馬鹿しいというか、何でこんなあほなことが罷り通るのか、いやになっちゃった」
とも漏らしている。
巨人オーナーらはNHK報道に注文
星野さんの日本プロ野球界批判は、言葉使いも熾烈だ。燃える男だからなのか、それとも本当に嘆くべき状況だからか。スポーツジャーナリストの岡田忠さんは、こうみる。
「そのぐらいきついことを言わないと分からないと思ったのでしょう。彼の場合、2球団で監督をしたばかりでなく、現在は阪神の経営者の一人です。だから、身に迫った危機感があったはずです」
実際、07年シーズンは、当初からプロ野球界が揺れ続けた。まず、プロ野球人気のバロメーターとも言える巨人戦は、テレビの視聴率が苦戦を続けた。新聞各紙によると、開幕戦は集計データがある1972年以降で最低の13.1%。4カード目の広島戦では、早くも視聴率が1ケタ台に落ち込んだ。また、シーズン前には、松坂投手ら日本のスター選手が相次いでメジャーに流出した。さらに、西武の裏金問題の発覚が、人気低迷に追い打ちをかけたと言われている。
こうした状況に、プロ野球の球団オーナーたちは、苛立ちを募らせたようだ。巨人の滝鼻卓雄オーナーは4月13日、東京ドームで行われたヤクルト戦後に報道陣に対し、NHKのメジャー報道について、「(中継が)ちょっと多すぎるのでは。もうちょっと日本のプロ野球もやってほしい」と注文をつけた。メジャーで松坂対イチローの対決が話題となる中、「イチローはどうなの?東京はどうかな。よく聞いといてね」と報道陣を逆取材もしていた。
さらに、NHK批判は、オーナー会議にも波及した。各紙によると、都内のホテルで7月18日に開かれた会議では、口々に不満が炸裂。オリックスの宮内オーナーは、「メジャー数名の選手ばかりを取り上げるのは、極めて異常で不愉快だ」と語気を強め、中日の白井オーナーも、「日本人選手の動向を優遇しすぎ」と強調した。
NHK批判の大合唱について、前出の岡田さんは、「足りない部分を人のせいにする論法で、筋違い」と指摘する。メジャー日本進出については、「近年、非常に急速にグローバル化が進んでおり、時の流れだと思います」と一定の理解を示したうえで、星野さんの思いを次のように代弁する。
「ただ、だからといって、日本の公式戦がないがしろにされるのはよしとしません。メジャーとの調整がしっかりしていなければ、いずれ従属する組織になってしまうでしょう。日本のプロ野球には、日本のよさがあります。負けないような営業努力をして、プロ野球の魅力を上げるしかありませんね」
星野さんは、前出のQ&Aコーナーで、反語のような形でこう熱い思いを吐露した。
「わたしにいわせたら日本野球はもともとアメリカに真っ向勝負なんて考えていないのではないかな」