三菱東京UFJ銀行が2008年1月中旬に発表したトップ人事の波紋が金融界でいまだ覚めやらない。本命視されてきた永易克典副頭取(60)が4月1日付けで新頭取に昇格する点だけみれば順当な人事。しかし、同時に畔柳信雄頭取(66)が持ち株会社、三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)社長に居残ることや、三井住友銀行との争奪戦を制してUFJ銀行との統合を事実上果たした実力者、三木繁光三菱東京UFJ銀行会長が相談役に退くことに様々な憶測が飛び交っているからだ。
銀行システムの全面統合に向けた人事?
トップ人事をめぐって憶測が飛び交っている
同行は今回の人事を「旧三菱東京と旧UFJの銀行システムの全面統合に向けた内部固め」と説明するが、金融界では信じる者は皆無だ。畔柳氏のFG社長残留に関しては「万が一、システム障害が起き、経営責任を迫られた時に差し出すための首を残しただけ」(大手行幹部)との「人身御供説」が専らだ。
他方、事実上の首領(ドン)である三木氏の退任に関しては「システム障害や業績不振の責任が自らに及ばないようにするため」との見方が有力で、その先には一部で浮上している日銀次期総裁ポスト狙いや福田政権が打ち出した新経済成長戦略「新前川リポート」の座長ポストに備える思惑があるともされる。
「畔柳さんはいずれにしても経営トップとしては少々期待外れで、行内でも日々、頭取辞任圧力が強まっていた」。同行幹部はこう明かし、「たとえ今回のトップ人事が無くても、役員をはじめ行内に主要幹部は07年秋以降、畔柳氏を見切り、永易副頭取になびいていただろう」と指摘する。
三木会長は福田内閣の新成長戦略の取りまとめ役狙う
実際、三菱UFJFGの業績は中核の銀行の経営不振で低迷。傘下のカード会社、三菱UFJニコスの処理や日銀の利上げ時期を見誤る「大チョンボ」で、07年11月には、2008年3月期のFG連結ベースの最終利益を従来の8000億円から6000億円に大幅に下方修正した。しかも、この6000億円という数字も、今後、他のメガバンクグループに比べて遅れている、米国の信用力の低い個人向け住宅融資(サブプライムローン)関連の損失処理の上積みを迫られれば、再度、1000億円規模で下方修正が迫られるのは必至とみられている。
そんな状況もあり、三木会長は畔柳氏の銀行頭取更迭を決断したと見られる。一方、注目される三木氏の去就は、3月19日に任期切れする福井俊彦日銀総裁の後任には本命の武藤敏郎副総裁(元財務省事務次官)が就任する可能性が高まり、思惑外れに終わりそうな情勢だ。それでも、福田内閣の新成長戦略の取りまとめ役の方は、三木氏が福田氏と名門・麻布高校同級生で懇意なこともあり「当確ではないか」(霞が関筋)とされ、三菱UFJの業績低迷とは裏腹に、三木氏の鼻息は荒いようだ。