「不正」を追及する姿勢が売り物のテレビ朝日のニュース番組「報道ステーション」だが、矛先が自身に向けられると「おとぼけ」まで繰り出すらしい。2007年11月に放送したマクドナルド店舗での「調理日偽装」報道問題で、テレ朝が、放送倫理・番組向上機構(BPO)放送倫理検証委員会に、「おとぼけ」珍回答をしたとして「極めて不適切」などと痛烈に批判された。
「あえて」の意味は「包み隠さず、オープンに」?
BPOは古館キャスターの「敢えて報告」発言を猛批判している
2007年11月27日に放送されたマクドナルド店舗での「調理日偽装」報道について、BPO放送倫理検証委員会は2008年2月4日、「安易な短絡的映像至上主義による演出は慎重さに欠ける」とする意見書を同局に提出した。
この日の放送は、マクドナルドの制服を着て店長代理のバッジをつけた人物が「直営店でも商品の調理日改ざんが行われていた」と「証言」するという内容だった。しかし、この番組終了後、マクドナルド店舗の制服がモデルチェンジされたにもかかわらず、以前の制服を着た人物がインタビューに応じていたことから、「内部告発」の事実性に疑問の声が上がっていた。
「報道ステーション」は2007年12月7日の放送で、証言は番組関係者で、かつてマクドナルド店長代理を務めていた人物によるもので、証言の事実性については「今も変わらない」とした。古館伊知郎キャスターは番組の中で、
「これは間違ったやり方です。申し訳ありません。視聴者の皆様方に混乱と誤解を与えるものでありました。今この番組が頂いている信頼というものを失わないためにも、敢えて報道ステーションはそのことを報告させていただきました」
と釈明している。
BPOの意見書によれば、テレビ朝日はBPOに対して、「担当したスタッフは、この証言者が過去にマクドナルドで働いていたことを視聴者にわかりやすく表現したかったと申しています」と説明しながらも「視聴者に混乱と誤解を与える不適切な表現方法でした」と非を認めている。
しかし、12月7日の古館キャスターの「敢えて報告した」という発言についてBPOから質問がされると、テレ朝は驚きの「おとぼけ」回答を繰り返した。
まず、この放送の趣旨について「『謝罪(お詫び)』『訂正』『報告』のいずれなのか」というBPOの問いに対し、テレ朝は「謝罪」と回答。古館キャスターの「敢えて報告した」発言の「あえて」の意味を問われると、「『包み隠さず自ら進んで不適切な表現方法を認めてオープンにする』という意味で使用しています」と答えている。
さらに、BPOが謝罪放送までに問題発覚から10日も経った理由について聞かれると、
「放送で謝罪するにあたって、何よりも事実関係を正確に確認・検証する必要があり、また証言者の身元が特定される可能性のある情報をどこまで表現すべきか、慎重にならざるをえず、議論を重ねた結果です」
と答えている。
BPO「敢えて報告」発言を猛批判
BPOはこれらの「珍回答」の数々について、「まず全体的な印象を言うと、テレビ朝日の回答は、放送倫理検証委員会からの質問に正面から向き合い、番組制作関係者の実感や肉声から発せられたものとは言い難い」と厳しく批判。テレ朝が挙げた「謝罪放送」に10日要した理由については、「理解に苦しむところである」「『慎重にならざるをえず』はまさに取材調査の段階、放送前に意識されなければならない事柄であった」と指摘されている。
さらに、BPOは意見書のなかで、
「言うまでもなく、『あ(敢)えて』とは『(しなくてもよいことを)強いてするさま。わざわざ。無理に』(大辞林第2版)、『しいて。おしきって』(広辞苑第6版)の意味であり、内外から多くの指摘を受け、10日も経過してからの『おわび(謝罪)』において使用するのは、極めて不適切な用語である」
と古館キャスターの「敢えて報告」発言を猛批判した。
にもかかわらず、古館キャスターは2008年2月4日放送の「報道ステーション」のなかで、「重く受け止めなくてはならないですね」「常に初心を見つめながら、今後もより一層の努力をしてまいります。ニュースを続けます」と、自身の発言については一切言及しない「おとぼけコメント」をしている。
J-CASTニュースはテレビ朝日にこの日の古館キャスターのコメントが「謝罪」「感想」「決意表明」の何だったのかを含め、なぜ自身の発言が大きな問題になったことを言及しなかったのかを聞いたが「放送したことが全てです」(広報部)と答えている。
また、念のため、12月7日の古館キャスターの「敢えて報告」発言が、「不適切」だと考えているのかと聞いてみたが、「BPO放送倫理検証委員会に回答したとおりです」(同広報部)と回答。テレ朝は「あえて=包み隠さず自ら進んで不適切な表現方法を認めオープンにする」だと未だに思っているらしい。