子会社が中国産ギョーザによる農薬中毒を起こした日本たばこ産業(JT)について、その株価が不審な動きをしていたと、ネットで論議を呼んでいる。最初の中毒発生から公表が1か月も遅れたこともあって、憶測や疑念が生まれたらしい。
3回にわたって株価が急落
中国産ギョーザによる中毒問題は、2007年12月28日に、千葉市内で最初の患者が報告された。その後、08年に入って1月5日に兵庫県内で、22日に千葉県市川市内で患者が相次ぎ、警察や行政、JTが30日、中毒の発生や製品自主回収を発表して騒ぎになった。それまでに、1か月もかかっている。
この間、ネットの掲示板では、JT株の動きについて議論が交わされていた。2ちゃんねるのスレッドでは、最初にJT株の不思議な動きが報告されたのが1月22日。この日の株価は59万5000円で、前日の62万4000円よりも3万円ほど下落していた。23日以降はやや持ち直したものの、同日の書き込みには、
「よえーー」「・・・誰も買い戻さないな。少し売ってみるか」
と溜め息が続いた。
さらに急落したのが、1月28日だ。JT株は、56万2000円と60万円を大きく割り込み、25日金曜日の61万円より5万円ほども急落した。28日の出来高も5万2000台と、金曜日に比べて倍増した。28日のスレ書き込みには、
「急落中。買おうかどうか迷いage」「なにこの下げ・・・。材料も見当たらないんだけど・・・」「下げたなー、何かあるのかな」「あのJT様がチャート崩れるなんて・・・」
と悲鳴に近い声が飛んだ。
そして、警察などが毒ギョーザ事件を発表した30日。記者会見が同日夕だったにもかかわらず、株価は再び下落していた。前日の57万7000円から56万2000円に下がったのだ。その発表の前後から、スレでは、売りが続いたことに対して、インサイダーの可能性を含めて様々な懸念の声が相次いだ。市川市の患者発生から1週間もたって発表された対応の遅さにも、不満の声が上がった。
「製品回収に至るまでの事案か分からなかった」
JTは、中毒情報をいつ知り、なぜ対応が遅れたのか。J-CASTニュースが広報担当者に取材すると、初めて知ったのは、1月4日だったと明かした。
「千葉市内のケースは、4日午後5時ごろに、ギョーザを販売した生協から『召し上がったお客様の気分が悪くなった』と伝えられました。弊社でも、同じ製造日の同じ製品を外部機関に検査してもらったところ、異状がありませんでした。そのときは、有機リン系農薬による中毒情報は聞いていません」
そして、1月5日発生の兵庫のケースは、7日になって、JT子会社を所管する東京都の品川区保健センターから知らせを受けたという。その際は、千葉のケースのように再検査せず、輸入当時の自主検査の結果を同センターに報告するだけに留めた。その後、センターや兵庫県に問い合わせても原因が分からず、「製品回収に至るまでの事案か分からなかった」と説明した。
JTによると、最終的に対策が必要と動き出すようになったのが29日だった。午前中に千葉県警から市川市のケースで捜査しているとの連絡を受け、兵庫県への問い合わせで同県警の捜査も知ったという。自主回収は警察などの記者会見が行われた30日と対応が遅れたことについて、「そのときになって初めて有機リン系農薬の情報が分かった」と釈明している。
論議になっている株価の動きについては、広報担当者は、「市場が決めることなので、コメントは差し控えさせていただいています。インサイダー情報などについては聞いていません」と答えた。
市場関係者は、どうみるのか。国際金融アナリストの枝川二郎さんは、こう話す。
「JTが主に販売しているたばこは、何が起きようとも吸う人は吸います。だから、普段は非常に株価が安定しています。最近、世界や日本で株価が下がっているといっても、誰かが中毒情報を知って売ったと考えられないことはないですね。ただ、株価の急落だけでは、何とも言えません。長い間情報が投資家に公開されなかったため、憶測や疑念を生んだのかもしれませんね。公表が遅れたのは、株式市場への影響ばかりでなく、消費者への影響を考えても、問題だと思います」