通常1個4円の貸し玉を1円に引き下げる店が増えている。同じ予算で長く遊べると人気だ。が、玉が4円の台などに悪用されるケースが出始め、パチンコ店を悩ませている。果たして共存は可能なのだろうか。
悪用すれば詐欺や窃盗罪に
「1円パチンコ」は、「ワンパチ」とも呼ばれ、都内のパチンコチェーンが06年6月に始めてから全国に広まった。通常1個4円の貸し玉を1円に引き下げ、1000円なら従来の4倍の1000玉分のプレイが楽しめる。大当たりは少ないが、同じ予算で長く遊べるのが特徴だ。
全日本遊技事業協同組合連合会によると、パチンコ人口は、娯楽の多様化が進んで、ギャンブル性の高さが敬遠されたことから、94年の約3000万人をピークに減少。近年はその半分にまで落ち込んでいる。そこで、手軽な「1円パチンコ」は、女性や高齢者にもファンを増やすことが期待されるようになったわけだ。
パチンコ店では、店内に1円玉のコーナーを併設している場合が多い。ところが、店内や他店には4円の台もあるため、1円玉を悪用する事件が起きているのだ。朝日新聞の1月21日付記事によると、東京・板橋区の店では07年8月、1円玉約8000発を上着やズボンに隠し持った客が、不正に入店して監視カメラに見つかった。また、静岡市内の店では同11月、6~7人組の男が換金目的で1円玉約5万3000発を持ち込んだ事件が起きた。
全日本遊技事業協同組合連合会の広報課では、「1円コーナーの玉を同じ店内の4円コーナーに持っていくと、詐欺になります。1円の店で玉を持ち帰って4円の店で使えば、窃盗犯として捕まります。こうした例を最近、いくつか聞いていますね」と話している。
地域によっては客の反応がよくないケースも
07年8月から約1割の台に1円玉を導入している名古屋市中区のプレイランドキャッスル記念橋南店の男性店長は、こう悩みを漏らす。
「外からも1円玉を持ち込まれる可能性があるので、随時警戒しているんですよ。ニュースなどで、4円玉に悪用される被害を聞いていますし」
同店では、対策として、人気の1円コーナーを出入り口が一つの中二階に設置し、1円玉の色を金に変えた。店長は、「メッキの質はよくなったので剥げる懸念は少ないのですが、金色の玉だと1個5円もします」と打ち明ける。玉作りの納期なども考えると、なかなか1円コーナーを拡充できないという。
1円台を導入した他のパチンコ店でも、対応に四苦八苦の様子だ。愛知県を中心にパチンコチェーンを展開する「めいほうぐるーぷ」では、玉を入れるドル箱の底にICチップを組み込んで、持ち出すとブザーが鳴るシステムを導入したり、ドル箱そのものを1円コーナーでは黒色にして4円コーナーと分けたり、などの対策をしている。
1円玉の色を変える工夫をしている都内のパチンコチェーンでは、「不正が報道されると、マネをする客が出てくるのが怖い」と戦々恐々としていた。
一方、1円パチンコそのものについても、その限界を指摘する声が出ている。大当たりが期待できないため、「ゲーセンと変わらないのでは」といった冷めた見方があるのだ。全日本遊技事業協同組合連合会でも、1円台の導入を各店に積極的に推奨していない。「店が利益率を上げるようにすると、玉が出なくなり、遊べる環境とは言えない」(広報課)からだ。都内ではまだ数少ないため、座れないぐらいの人気の店があるものの、地域によっては客の反応がよくないケースも聞くという。
同連合会広報課では、「パチンコのお客は、1円がいい人ばかりでなく、射幸性がいい人など様々です。ですから、多様性のある遊技環境が理想ですね」と話す。ただ、「悪貨が良貨を駆逐」しているような状況では、共存へのハードルはまだまだ高いようなのだ。