住友商事が東京日産自動車の販売ノウハウを活用し、個人向けオートリース(個人リース)事業の展開に本腰を入れ始めた。国内新車市場の販売環境は厳しいものの、オートリース(以下リース)販売は今後も伸び、とくに個人リース販売は2~3年後には急激に拡大すると睨む。その要因は新車市場における「残価」概念の浸透。リース子会社の住友三井オートサービスを軸に個人リースの販売戦略を練り、まずはマツダ系ディーラーなどに、東京日産自動車が確立した個人リースの販売ノウハウを提供する計画。さらに中小規模のリース会社の買収も含め、住友商事グループで個人リース販売のトップシェアを獲得する構想だ。
ユーザーに車が買いやすいと感じてもらえる工夫が大事
車の個人リースが増えている(写真はイメージ)
国内新車市場の縮小により、車の国内保有台数は今後減少していくと予測されている。その中で増えてきているのがリース保有台数だ。住友商事の推計では、国内保有台数7700万台のうちリース保有台数は3.9%にあたる302万台を占める。また国内保有台数のうち法人車は2400万台、個人車は5300万台あり、リース保有台数は法人車の12.1%にあたる290万3000台、個人車の0.2%にあたる11万7000台が存在する。
法人のリース車導入は、経費削減や車両管理などの点から増加し続けている。個人にしても新車を所有ではなくリースの形態で使用するユーザーは台数の規模こそ少ないが増えている。その個人リースを選ぶ個人ユーザー数が、自動車メーカーの新車販売戦略の影響で加速するとされている。
新車市場のマイナス成長に歯止めをかけようと、自動車メーカー各社は新車の「買いやすさ」を高める販売施策の導入を進めている。そのひとつが金融商品である「残価据置型オートローン」の設定。新車販売後の車の商品価値を示す残価を差し引いた価格で3年や5年などのローンを組み、その期間内における支払額を低く抑えることで、ユーザーに車が買いやすいと感じてもらえ、新車の販売増に結びつくと考えた。残価は中古車として販売されるときの車の人気度合いをベースに設定されている。
残価据置型オートローンの利用者は、ローンの期間終了時点で車をディーラーに返却するか乗り続けるかを選択する。乗り続ける場合は残価分について、再びローンを組むか現金で支払うことになるわけだ。この数年、トヨタや日産などは金融子会社に残価据置型ローン商品を開発させ、新車ディーラーにおける商品訴求を積極化している。
この残価の概念が広まることで、リース会社が販売する個人リース商品の販売も増えることが期待される。個人リース商品の主力は3年または5年間のリース商品。車の所有者はリース会社となり、リース契約期間終了時の残価を差し引いた車の価格とリース契約期間中の税金や自賠責保険料などがリース金額となる。
契約期間中は改造ができないという制限があるが、頭金が不要でありユーザーは自分の車と同じように車を利用することが可能だ。このため個人リースは、ユーザーの車利用の形態として増大すると考えられている。だが実際には所有にこだわるユーザーが多いことや、残価の概念がわかりにくいことなどから、個人リースの普及スピードは遅かったとされている。そこに残価の概念が市場に浸透する機会が到来したのだ。
2位の住友商事グループがトップをうかがう
住友商事グループは三井住友フィナンシャルグループとオートリース事業の戦略的共同事業化策を打ち出し、2007年10月に住友商事グループの住商オートリースと三井住友フィナンシャルグループの三井住友銀オートリースが合併した住友三井オートサービスが誕生。また住友商事は同年9月、東京日産自動車の親会社である東日カーライフグループ傘下であったエース・オートリースの総株式数の70%を手にした。
エース・オートリースは、日産ディーラーである東京日産自動車のリース部門が独立したリース会社。エース・オートリースのリース商品は東京日産自動車だけが扱っているため、個人リース商品の利用者は東京中心に限られている。それでも個人リース保有台数は全国4位の実績を持ち、全国規模の大手リース会社と肩を並べている。
個人リース市場における保有台数1位はNTT系の日本カーソリューションズ、2位がオリックス自動車、3位が日産フィナンシャルサービス、4位がエース・オートリースとスバルファイナンス、6位が住友三井オートサービス、7位がGEフリートサービス。この7社が個人リースの大手。2~4位の差は近いとされ、住友商事グループとしては2位に位置している。
さらに1位の座に向けて住友商事は、住友三井オートサービスの子会社であるマツダオートリースの個人リース保有台数拡大を計画。マツダオートリースはマツダ系新車ディーラーにリース商品を提供しているが、法人リースが中心で個人リースは皆無に近い。そこでエース・オートリースの個人リース商品販売ノウハウをマツダオートリースに注入し、マツダ系新車ディーラーを通じて個人リース商品の販売量を増大させることを考えた。
グループ内のシナジー効果を有効活用する取り組みだが、そこにあるのは東京日産自動車の販売ノウハウだ。東京日産自動車は新車ディーラーの個人リース販売で先駆とされている。販売車種によって異なるが、東京日産自動車の新車販売台数に占める個人リース比率は、車種によっては20%以上になることもある。日産自動車は東京日産自動車の個人リースの販売ノウハウを、子会社の日産フィナンシャルサービスを通じて日産系ディーラーに展開させている。
この実績のある個人リース販売のノウハウが全国のマツダ店に普及することになれば、個人リース市場で住友商事グループが1位となるのは夢ではない。さらにリース事業には車両を所有するための資金が必要で、今後も大手リース会社が中小規模のリース会社を傘下に収める動きが進むとみられる。住友商事は住友三井オートサービスによる中小リース会社の吸収などを進め、需要の拡大が見込める個人リース市場で1位の座をグループで獲得する構想。個人リース市場が伸びる反面、リース会社による個人リース販売競争は企業再編も含めて激しさを増してきたようだ。