報道局記者らのインサイダー株取引問題は、NHKが局内で公私にルーズな勤務体制を取っていたことを浮き彫りにした。記者らは勤務中に自宅に帰って株取引していたり、犯罪にも使われる情報を記者パソコンで比較的自由に見られたりしていたのだ。こうしたずさんさに怒った視聴者からは、「受信料を払わない」という苦情が再び寄せられ始めている。
「パソコンは、上司の許可で局外にも持ち出せる」
勤務中、自宅で株取引する記者がいたNHK
証券取引等監視委員会が金融商品取引法違反の疑いで調査に乗り出したのは、報道局テレビニュース部制作記者(33)、岐阜放送局放送部記者(30)、水戸放送局放送部ディレクター(40)の男性職員3人。新聞各紙の報道によると、07年3月8日午後3時のニュース直前、3人は別々に、外食大手のゼンショーが回転寿司チェーンのカッパ・クリエイトをグループ会社化するとのスクープを局内で知り、カッパ株を1000~3000株ほど買い、翌日に売り抜けて10~40万円ほどの利益を得ていたという。
この問題で驚かせたのは、勤務中に取引を行っていたことだ。3人のうち2人は自宅に帰ってパソコンで、1人は携帯電話のサイトで、ネットを通じて買い注文を出していた。地方放送局の職員なら、緊急時などに備え自宅が近い場合が多いが、NHK広報部では、自宅に帰ったのは3人の誰なのか、J-CASTニュースの取材に、「3人のうち1人は容疑を否定しており、調査中」として答えなかった。
さらに、NHKは、インサイダー情報を含むスクープ原稿を記者に比較的自由に見られるようにしていた。「5300(ゴーサンマルマル)」と呼ばれるニュース制作システムによる原稿閲覧だ。全国約5000人の報道局記者、ディレクターらが局内のコンピューター端末や記者パソコンを使ってシステム内にアクセスできるという。NHK広報部では、3人がどのような使い方をしていたのかは、「調査中」として答えなかったが、「パソコンは、上司の許可で局外にも持ち出せる」という。自宅で原稿を見て、売り買いもできたわけだ。
「本当に3人だけか。ほかにもいっぱいいる」との声も
職務中、疲れたわけでもないのに自宅に帰って株取引。ということは、NHK報道局は、人余りで仕事が少ないのだろうか。NHK広報部に当てると、「3人のことは、なんとも言えませんね。そのときに、どのような状況だったかにもよりますし、休憩時間だった可能性もありますし…。通常は暇になるようなことはありません」と歯切れの悪い説明だった。勤務時間中に自宅で仕事をすることについては、「それはないと思います」と答えた。
一方、なぜ5000人もが「5300」システムの内部情報を見ることができるのか。これに対しては、NHK広報部は、「必要な人が見られるシステムということです。なぜと言われても、必要だからと言わざるを得ませんが、今後は、運用の見直しを含む再発防止策を作ります」と述べた。事実上、今まで必要がない人も見られたことを認めたわけだ。カッパ・グループ化のスクープ原稿は、放送の22分前からシステムで閲覧可能だったが、広報部では、「結果がこうなりましたので、閲覧可能にするのが早過ぎたかもしれない」と答えた。
今回の問題では、5000人も閲覧可能だったため、増田寛也総務相さえ、1月18日の閣議後の記者会見で「本当に3人だけか。ほかにも(インサイダー取引した人が)いっぱいいるのではないかと思う」と漏らしたほどだ。NHK広報部では、増田総務相が促した5000人全員の調査については、「まだ分かりません」と述べるにとどまった。
NHKのOBは、こうした指摘をどうみるのか。元NHK政治部記者で評論家の川崎泰資(やすし)さんは、J-CASTニュースに対し、次のように話している。
「私がかつてNHK職員だったころは、時間や暇というより金がありませんでした。民放に比べて貧乏でした。しかし、海老沢(前会長)体制になって、ここ10年、資金の面では豊かになったようです。問題は、ヒマかどうかよりも、倫理感が欠落した会社になったということです。綱紀が緩んでおり、NHKの報道にも、弛緩した空気が流れているのを感じます。さらに、ネット化で、個々人でも自由に株取引ができるようになって、局内の情報を使う意味合いが分からなくなっているのでは。悪いことをするやつが悪いと思わなくなっているということです。もし局内があまりに酷い状況なのでタレ込みがあったとすれば、その症状はかなり重大だということになりますね」