何が問題だったのか、「みのもんた」はそれと向き合っていない
郷原 TBSはまた死にかけていると思います。確かに、当時は「死んだ」という認識をもって何とかしようという動きもあった。今回はそれすらない。死にかけていることがわからない。あの時なぜ「死にました」って言わなければならなかったのか。
「チョコレート再使用」報道も、一連の不二家バッシング報道のなかの氷山の一角だと思っています。あの1ヶ月のあいだに垂れ流した不二家バッシング報道のなかにTBSは反省しなくてはいけないことが山ほどあったはずです。それについて何一つ検証していない。
――「朝ズバ」の2007年8月の放送では、「素直にお詫び申し上げたい」とみのもんた氏が頭を下げる場面もありました。
郷原 誰に対して謝っているのかわからないし、謝るというのは事実に対して謝るということです。「言い方が悪かった」というレベルの問題じゃなくて、「言い方」はいってみればみの氏のやり方でしょ?だから「言い方」はいいって(笑)。間違いのない事実に基づいてああいう言い方するのはいい訳で、どういうことを事実と認識してみの氏は発言したのか、その中身が全然検証されてない。だからまたみの氏は問題発言するんでしょ?謝ったことの意味がなかったってことですよ。
まちがったこと、問題を起こしたことについて何が問題だったのか、その事実と向き合わない。だから同じ問題が、繰り返し、繰り返し起こるんです。
――実際にTBSの人たちと向き合ってみて、どんな印象を持ちましたか
郷原 個人の批判はしたくないけども、あれだけよくウソがつけるなと、あれだけ開き直った態度が取れるなと。長年検事としていろんな人間とかかわってきたけど、あれだけシャーシャーとしてウソをつける人を知らない。人間あそこまではならないはずだけど、よっぽど環境が悪いんだろうなと思いました。やっぱりその環境というのは、狭い意味では今のTBS全体が「非コンプライアンス」の状態にあるということだと思います。
もうひとつ、放送事業者全体の問題、放送事業をめぐる制度の問題でもあるんです。一番問題なのは、「捏造」など意図的に事実に反する報道を行ったことが分かった。認めたとたんに厳しい処分が下る。逆に認めなければ、調査されることや厳しい処分がない。マジメに事実に向き合うとかえって損をするという制度なんです。だから、BPO検証委員会は自主的な検証機関として、事実として「捏造」があったのかなかったということもさることながら、ちゃんと放送事業者として指摘を受けたことに対して対応したのか、事実に向き合ったのか、コンプライアンス対応がどうだったしたのかを評価しなくてはいけない。そちらの方がはるかに重要だったと思います。しかし、BPO検証委員会は、TBSがどういう風に対応したかということについて今回、全く何も言っていない。これでは、本来の目的を果たしているとはいえないですよね。その結果、TBSが大ウソをついても、大ウソを前提として事実を認定するということになってしまうんです。
TBSの不二家報道経緯
2007年1月22日「みのみんたの朝ズバッ!」で不二家の「賞味期限切れチョコレートの再使用」が放送された。不二家・平塚工場の元従業員とされる証言者が、賞味期限切れのチョコレートを捨てようとしたら上司に怒られ、再び包装しなおした、と証言していた。しかし、後にこの証言は、不二家のクッキー「カントリーマアム」についての「証言」をチョコレートの「証言」として「流用」していたことがBPOの検証などで明らかになった。
【郷原信郎(ごうはらのぶお)プロフィール】
桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大コンプライアンス研究センター長。1955年 島根県松江市生まれ。東京大学理学部卒業。
東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授。
警察大学校専門講師、内閣府参与、公正入札調査会議委員(国土交通省、防衛施設庁)、和歌山県公共調達検討委員会委員長などを務める。