TBSの情報番組「みのもんたの朝ズバッ!」の不二家報道に「捏造」の疑いが指摘されてから久しい。「捏造」を最初から一貫して指摘しているのは、不二家が外部に設置した「信頼回復対策会議」の議長を務めた桐蔭横浜大学法科大学院・郷原信郎教授だ。J-CASTニュースでは、郷原教授にインタビューし、2回にわたって「TBS朝ズバッ問題」の「真相」とTBSの体質に迫る。
検事の経験からしても、こんなに信用性の高いメモはない
TBS「朝ズバッ!」について「捏造があったのは間違いない」と語る郷原信郎教授
――放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会とTBSの検証委員会はともに「朝ズバッ!」の不二家報道について、「捏造はない」との結論を出しています。ただ、以前から指摘されていた「証言の流用」については認めた形になっており、「捏造」の有無は、「流用」が意図的か意図的でないかということにかかっています。「捏造」はあったと考えていますか。
郷原 意図的な「捏造」があったのは間違いないでしょう。一般的に言うと、テレビ局の捏造番組というのはなかなか発覚しにくい。ごく一部の人間、当事者しか知らない。やった人間はそれでばれちゃったら大変なことになりますから、表に出てこないわけです。「あるある」(編注:関西テレビが放送していた「あるある大事典II」)の場合はまったくのデタラメで「捏造」が発覚しましたが、特殊なケースです。
信頼回復対策会議の議長として、不二家に関する新聞・テレビの報道をいろいろ調査していく中で、食品業界の実情についてマスコミの無理解・誤解が多くありましたが、そのなかでとりわけ意図的でひどかったのが、TBSの「朝ズバ」でした。「朝ズバ」の一連の放送のなかで、さらにひどいのが1月22日の「チョコレート再利用」の報道です。これが、意図的な捏造ではないかという疑いを私が持ったのは、実は偶然だったんです。
TBS側が事前に不二家に対して事実確認したときの文言、つまり「カントリーマアム」(不二家製のクッキー)について事実確認した「証言」の内容と、最終的に「チョコレートの再使用」として放送された証言の内容が不自然なほど一致していた。その事実にたまたま気がついたんです。それで、「これはすり替えじゃないか」という疑いを持った。
しかし、「捏造というのは、外部者には分からない」という一般論でTBSは対応したんですよ。「捏造があると言ったってそんなことはあるはずがない。仮にあったとしても分かるはずがない」ということです。ただ、TBSはここで多くの誤りを犯しました。
――TBSが犯した「誤り」とは何ですか
郷原 私は「カントリーマアム」証言について、本当に取れていたのか、証言ビデオが存在するのか確かめました。存在しない証言をもとに事実確認したということはないのかどうか。
TBS側は「証言テープはあるんだ」と答えました。同時に、「カントリーマアム」は平塚工場でつくっていないことは最初から分かっていた、とも主張しました。
これを07年3月25日の不二家とTBSの会談の時に、TBSのコンプライアンス室長、番組プロデューサー、曜日プロデューサーが3人が3人とも口をそろえて言うわけですよ。TBSのほうとしては「カントリーマアム」が平塚工場で作られていないことは最初から知っていた。そういうウソを最初についたんです。
07年3月28日の社長会見の前に、TBSはブリーフィングを開いているんですが、「証言者は平塚工場でクッキーを製造してないということを承知しており、チョコレート工場になぜクッキーが戻ってくるのかとの疑問を抱いたという趣旨の証言をしてます。また、TBSはカントリーマアムの件ついては、そもそも不二家側の担当のメモが間違っていると考えている」という内容の文書まで記者たちに配っているんですよ。
つまり、「カントリーマアム」は平塚工場で作っていないということは分かっていた。そんな事実確認は不二家にしていない、不二家担当者のメモが間違っているという、苦し紛れの言い訳をしているわけなんですよ。TBS側は電話メモっていっても走り書き程度のものだと思っていたんでしょう。
――そこで2007年3月30日の信頼回復会議の最終報告書のなかで、TBSが不二家に事実確認したときの電話メモが公開されたわけですね。
郷原 常識的に考えても、検事として刑事事件を経験してきた専門家からしても、機械的に電話をメモしたもので、こんなに信用性の高いメモはないですよ。これも、TBS側としては誤算だったんでしょう。ここまではっきりしたメモが残っているというのはね。これが、その後のTBSの苦しい展開の原因になるわけです。なんとか言い逃れをしようと、墓穴を掘りまくっています。その後、TBSは「捏造」について否定はするものの、事実関係について反論してこなかったんですよ。
「混同していた」というのは幼稚園児なみの弁解
そこで、必死に不二家にすりよって「謝罪」を受け入れてもらおうとするわけです。それが07年4月18日のわけのわからない「謝罪放送」です。(みの氏が)ミルキーを一杯ほうばってっていう(笑)。事実を認めないかたちで不二家側に精一杯リップサービスして、「広告効果」で勘弁してもらおうということを考えたんでしょう。
以前から申し上げていますが、不二家は以前の不二家ではもうなくなってしまった。山崎製パンにとりこまれた「山パン不二家」としてTBSと争いを続けるよりも、TBSに宣伝に協力してもらった方がプラスと判断したのだと思います。TBSとしては、当事者である不二家が受け入れてくれたからすべて決着した、もう郷原が何を言おうと関係ないと判断したのでしょう。
ところが、BPOの検証委員会が立ち上げられて、私たちもこの問題を提起した。ちょうど放送法の改正の問題があり、BPO検証委は放送内容に対する介入が行われないようにするための防波堤として設置されたばっかりだから、この問題についてきちんと対応せざるを得なかった。時間はかかりましたが、審議入りが決定されたわけです。
――BPOはクッキーである「カントリーマアム」の証言をチョコレートの証言としてすり替えていたという事実については認めていますね。
郷原 指摘していた通りでした。カントリーマアムの証言が実際に存在していた。それがそっくりそのままチョコレートの証言として使われた事実は明白であって否定できない。それについて、TBS側がなんとかして「捏造」じゃないと主張するとすれば、意図的なものじゃないというしかない。
そこで最後の最後に苦し紛れに出してきた弁解が、カントリーマアムとチョコレートを「混同していた」。担当ディレクターが混同していたという幼稚園児なみの弁解をするしかなかった。
なぜそんな弁解をするかというと、「捏造」を否定するにはそれしかなかったからです。検証委員会は本来ならそんなバカな弁解は聞くことはありえないはずなんだけど、検証委員会は母体である放送事業者に対しておそらく厳しい処分をしたくなかったんでしょう。TBSの弁解をそのまま受け入れた上で、ほかの番組制作過程をおもいっきり批判して、一番肝心な「捏造」の事実関係のところをぼかして決着させてしまった。
――「カントリーマアム」の証言が意図的にチョコの証言にすり替えてしまったと思われる背景には何があるのでしょうか
郷原 最終的に証言内容はたった14分しかなくて、そのなかで重要なのは「チョコレートを溶かして再使用していた」「カントリーマアムを再包装した」という2つだけだったと思います。
証言者がまともに自分が体験している内容として話しているのは「チョコレートを再び溶かす」という話。不二家が答えているとおり、形成不良品を再び溶かすことは他社でもやっていることですから、何の問題もないわけです。一方、「カントリーマアムをパッケージしなおして」という証言は、言ってみればリアルなもので、この部分しかスクープになる話がなかった。だから「朝ズバ」が取り上げようとなったのでしょう。
そして、2日前に事実確認したら、何と平塚工場では「カントリーマアム」はつくってない。番組を制作している彼らとしては、「カントリーマアム平塚工場で作っていると思ったんだよな、それが違っていて参ったんだよな」という話だったんじゃないでしょうか。結局、「カントリーマアム」の証言をチョコの証言にしてしまったわけです。だから、最初から、カントリーマアムが平塚工場で作っていないことは知っていたと、そのウソをことさら強調していたのでしょう。私は、証言者が存在していなかったとは言っているわけではない。証言として無価値なものを価値があるように装った、これは立派な捏造です。
――TBSの主張をまとめると、「カントリーマアム」を不二家・平塚工場で作っていないことを最初から知っていたからそんな事実確認はしていないと言う一方で、最後には「混同していた」と主張しているのは矛盾しているという話ですね。
郷原 その場しのぎでウソをつき続けているから、最初のウソと最後のウソは辻褄が合わない訳なんですよ。犯罪者の弁解としてよくある話ですよ。
TBSの不二家報道経緯
2007年1月22日「みのみんたの朝ズバッ!」で不二家の「賞味期限切れチョコレートの再使用」が放送された。不二家・平塚工場の元従業員とされる証言者が、賞味期限切れのチョコレートを捨てようとしたら上司に怒られ、再び包装しなおした、と証言していた。しかし、後にこの証言は、不二家のクッキー「カントリーマアム」についての「証言」をチョコレートの「証言」として「流用」していたことがBPOの検証などで明らかになった。
少なくとも過去10年のあいだに不二家・平塚工場はチョコレート工場でクッキー「カントリーマアム」を作ってはいなかった。そして、TBSが放送2日前に事実確認したときの電話メモが不二家側に残っていたのである。後に公開されたこのメモには「証言の内容」として次のように書かれていた。
(1)返却されてきた(賞味期限切れと言った)チョコレートを再び溶かして使用していた
(2)カントリーマアムについて、賞味期限が切れていたので捨てようとしたら上司に怒られ、それを再度新しいパッケージに入れて製品としていた。
メモには平塚工場では「カントリーマアム」が作られていないとTBS側に回答した旨が書かれている。クッキーを作っていないチョコレート工場でクッキーを再包装するという証言、しかもクッキーがチョコレートの話としてニュースとなったのである。
のちにこの問題は、TBSの番組ディレクターがクッキー「カントリーマアム」をチョコレートの一種と「誤解」、「カントリーマアム」についての証言がチョコレートについての証言として使われただけで、「捏造はなかった」とBPO放送倫理検証委員会とTBS側から結論付けられている。
【郷原信郎(ごうはらのぶお)プロフィール】
桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大コンプライアンス研究センター長。1955年 島根県松江市生まれ。東京大学理学部卒業。
東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授。
警察大学校専門講師、内閣府参与、公正入札調査会議委員(国土交通省、防衛施設庁)、和歌山県公共調達検討委員会委員長などを務める。