「混同していた」というのは幼稚園児なみの弁解
そこで、必死に不二家にすりよって「謝罪」を受け入れてもらおうとするわけです。それが07年4月18日のわけのわからない「謝罪放送」です。(みの氏が)ミルキーを一杯ほうばってっていう(笑)。事実を認めないかたちで不二家側に精一杯リップサービスして、「広告効果」で勘弁してもらおうということを考えたんでしょう。
以前から申し上げていますが、不二家は以前の不二家ではもうなくなってしまった。山崎製パンにとりこまれた「山パン不二家」としてTBSと争いを続けるよりも、TBSに宣伝に協力してもらった方がプラスと判断したのだと思います。TBSとしては、当事者である不二家が受け入れてくれたからすべて決着した、もう郷原が何を言おうと関係ないと判断したのでしょう。
ところが、BPOの検証委員会が立ち上げられて、私たちもこの問題を提起した。ちょうど放送法の改正の問題があり、BPO検証委は放送内容に対する介入が行われないようにするための防波堤として設置されたばっかりだから、この問題についてきちんと対応せざるを得なかった。時間はかかりましたが、審議入りが決定されたわけです。
――BPOはクッキーである「カントリーマアム」の証言をチョコレートの証言としてすり替えていたという事実については認めていますね。
郷原 指摘していた通りでした。カントリーマアムの証言が実際に存在していた。それがそっくりそのままチョコレートの証言として使われた事実は明白であって否定できない。それについて、TBS側がなんとかして「捏造」じゃないと主張するとすれば、意図的なものじゃないというしかない。
そこで最後の最後に苦し紛れに出してきた弁解が、カントリーマアムとチョコレートを「混同していた」。担当ディレクターが混同していたという幼稚園児なみの弁解をするしかなかった。
なぜそんな弁解をするかというと、「捏造」を否定するにはそれしかなかったからです。検証委員会は本来ならそんなバカな弁解は聞くことはありえないはずなんだけど、検証委員会は母体である放送事業者に対しておそらく厳しい処分をしたくなかったんでしょう。TBSの弁解をそのまま受け入れた上で、ほかの番組制作過程をおもいっきり批判して、一番肝心な「捏造」の事実関係のところをぼかして決着させてしまった。
――「カントリーマアム」の証言が意図的にチョコの証言にすり替えてしまったと思われる背景には何があるのでしょうか
郷原 最終的に証言内容はたった14分しかなくて、そのなかで重要なのは「チョコレートを溶かして再使用していた」「カントリーマアムを再包装した」という2つだけだったと思います。
証言者がまともに自分が体験している内容として話しているのは「チョコレートを再び溶かす」という話。不二家が答えているとおり、形成不良品を再び溶かすことは他社でもやっていることですから、何の問題もないわけです。一方、「カントリーマアムをパッケージしなおして」という証言は、言ってみればリアルなもので、この部分しかスクープになる話がなかった。だから「朝ズバ」が取り上げようとなったのでしょう。
そして、2日前に事実確認したら、何と平塚工場では「カントリーマアム」はつくってない。番組を制作している彼らとしては、「カントリーマアム平塚工場で作っていると思ったんだよな、それが違っていて参ったんだよな」という話だったんじゃないでしょうか。結局、「カントリーマアム」の証言をチョコの証言にしてしまったわけです。だから、最初から、カントリーマアムが平塚工場で作っていないことは知っていたと、そのウソをことさら強調していたのでしょう。私は、証言者が存在していなかったとは言っているわけではない。証言として無価値なものを価値があるように装った、これは立派な捏造です。
――TBSの主張をまとめると、「カントリーマアム」を不二家・平塚工場で作っていないことを最初から知っていたからそんな事実確認はしていないと言う一方で、最後には「混同していた」と主張しているのは矛盾しているという話ですね。
郷原 その場しのぎでウソをつき続けているから、最初のウソと最後のウソは辻褄が合わない訳なんですよ。犯罪者の弁解としてよくある話ですよ。
TBSの不二家報道経緯
2007年1月22日「みのみんたの朝ズバッ!」で不二家の「賞味期限切れチョコレートの再使用」が放送された。不二家・平塚工場の元従業員とされる証言者が、賞味期限切れのチョコレートを捨てようとしたら上司に怒られ、再び包装しなおした、と証言していた。しかし、後にこの証言は、不二家のクッキー「カントリーマアム」についての「証言」をチョコレートの「証言」として「流用」していたことがBPOの検証などで明らかになった。
少なくとも過去10年のあいだに不二家・平塚工場はチョコレート工場でクッキー「カントリーマアム」を作ってはいなかった。そして、TBSが放送2日前に事実確認したときの電話メモが不二家側に残っていたのである。後に公開されたこのメモには「証言の内容」として次のように書かれていた。
(1)返却されてきた(賞味期限切れと言った)チョコレートを再び溶かして使用していた
(2)カントリーマアムについて、賞味期限が切れていたので捨てようとしたら上司に怒られ、それを再度新しいパッケージに入れて製品としていた。
メモには平塚工場では「カントリーマアム」が作られていないとTBS側に回答した旨が書かれている。クッキーを作っていないチョコレート工場でクッキーを再包装するという証言、しかもクッキーがチョコレートの話としてニュースとなったのである。
のちにこの問題は、TBSの番組ディレクターがクッキー「カントリーマアム」をチョコレートの一種と「誤解」、「カントリーマアム」についての証言がチョコレートについての証言として使われただけで、「捏造はなかった」とBPO放送倫理検証委員会とTBS側から結論付けられている。
【郷原信郎(ごうはらのぶお)プロフィール】
桐蔭横浜大学法科大学院教授、同大コンプライアンス研究センター長。1955年 島根県松江市生まれ。東京大学理学部卒業。
東京地検検事、広島地検特別刑事部長、法務省法務総合研究所研究官、長崎地検次席検事などを経て2005年から桐蔭横浜大学法科大学院教授。
警察大学校専門講師、内閣府参与、公正入札調査会議委員(国土交通省、防衛施設庁)、和歌山県公共調達検討委員会委員長などを務める。