武藤総裁実現でも「政治に大きな借りを作ることになる」
そんな中、強気でなる福井総裁だけは秋以降も何とか追加利上げを行えないか、「ナローパス(隘路)」を密かに探っていた節がある。実は日銀法では総裁の再任も可能で、デフレ退治に注力し、金融政策で大きな失点のない福井氏は制度上、今回の任期切れで辞める必要は必ずしも無く、米連邦準備制度理事会(FRB)のグリーンスパン前議長のように長期にわたり金融界の"法皇"の地位に居続けることも可能だったのだ。実際、官僚天下り批判から武藤氏昇格に難色を示しつつ、具体的な人選に頭を悩ます野党・民主党側からは「福井氏再任が出来れば、最も好都合だったが……」との声も漏れている。
また、財務省との関係で再任が実現しない場合も、本来なら次期総裁人事に関して発言力を行使できる立場にあるはずで、金融正常化を名目とした追加利上げと武藤氏の総裁昇格の両立を図れる可能性もあった。しかし、村上ファンドへの投資問題が仇となり、福井氏は現実には総裁再任はおろか「日銀次期総裁選定への発言権もほとんど無い」(与党幹部)。福井総裁が07年末に「花道利上げ」を早々とギブアップせざるを得ない状況に追い込まれたのにはそんな背景もある。
政策より人事・組織防衛を優先するのが中央官僚の常とは言え、現在の日銀は金融政策の独立性へのこだわりはあまりに淡白。武藤総裁が実現したらしたで、「政治に大きな借りを作ることになり、その面でも金融政策が縛られるのは必至」(内閣府幹部)と見られるだけに、金融正常化は遠のくばかりだ。