二酸化炭素(CO2)などの排出量を削減するための排出権取引。EUでは排出権取引市場があって、企業間の売買や地球温暖化の防止に関心の高い個人投資家をも巻き込んで取引されているが、日本ではEUのような取引所は存在しない。そうした中で、三菱UFJ信託銀行は排出権信託の「小口化」を実現、2007年12月25日から排出権商品(受益権証書)の販売を始めた。
1トンあたり「3500~4000円」で排出権が買える
セブン&アイホールディングスも排出権ビジネスに参入
三菱UFJ信託銀行が販売(募集)している排出権信託は、三菱商事が韓国でのフロン回収による温室効果ガスの削減事業で得た5万トン分の現物排出権に設定した。この現物排出権の管理・処分を三菱UFJ信託が行い、その権利を小口化して販売する。販売価格は1トンあたり3500~4000円になる。
排出権取引はこれまで、数万トン単位の大きな取引ばかりで、商社や電力、鉄鋼などの大手企業の一部にとどまっていた。それを数千トン、数百トン単位に小口化することで、中堅・中小企業やサービス業者などでも買えるようにした。地球温暖化防止への取り組みが企業の社会的な評価を高めることもあり、排出権を買うことでCO2の削減目標を達成したいという中堅・中小企業のニーズに対応。排出権取引への参加者のすそ野拡大を可能にしたわけだ。
排出権は海外のものが対象となるので、それをすべて自社で行うには手間がかかる。三菱UFJ信託は、「信託方式のよさは割当量口座の管理などがいらないことと、排出権の出所が明らかなこと。企業は買ったあとも信託銀行にまかせておけばいいのです」と、管理がラクであることを強調する。
同社は08年中に100万トンの排出権を販売する計画だ。EUでは個人投資家でも排出権を売買するほどだが「日本ではまだそこまで行っていませんし、小口化したとはいえ、投資商品とはいえません」という。排出権の購入を希望する企業も、自社が努力したうえで、なお目標達成がむずかしいときに購入するので、「おそらく、どの企業も期限(2013年6月末)まで持ち切ることになると思います」とみている。
携帯用エコバックで得た収益が元手
企業が排出権を買う理由には、設備投資等との「見合い」もある。たとえば、工場をつくって生産力を高めれば、それによって排出されるCO2は増える。だからといって、老朽化した工場をいつまでも使っていて生産力がダウンしては収益に影響する。そのため、「株主からみて、CSRの観点と収益性のバランスがどのように保たれているかがポイントになります」と指摘する。
セブン&アイホールディングス(HD)は08年1月8日、イトーヨーカ堂やセブン‐イレブンなどのグループ約1500店舗で販売する携帯用エコバックで得た収益から1枚あたり5円を温室効果ガスの排出権の取得に活用し、それを環境省に寄附する取り組みを始めると発表した。
セブン&アイHDは三菱UFJ信託を通じて排出権を購入する。排出権を買う資金は、お客からコツコツと集めた資金が元手、ということになる。
エコバックの販売は1月9日から。Mサイズは300円、Lサイズは350円。お客はエコバックを買うことでCO2の削減に協力できる。「投資」には遠いが、排出権取引というものを少しは身近に感じられる。