生命保険業界第2位、日本最古の相互会社の第一生命保険が2010年度をメドに株式会社転換(株転)する方針を決めたことが、生保業界に大きな波紋を広げている。アグレッシブな業界首位の日本生命や4位の住友生命に比べて、「おっとりしている」イメージが持たれていた第一が突然、「株転でリスクマネーを調達し、海外事業の拡大や業界再編に乗り出す」(幹部)と猛然と攻めの姿勢を鮮明にしたことの衝撃がいまだ覚めやらないのだ。
上場時の株式時価総額はNTTを上回る最大3兆円程度
第一生命は08年3月にも株転に向けた成長戦略の概略を公表。同6月の総代会(相互会社の最高意思決定機関、株式会社の株主総会に相当)に株転と株式上場の方針を諮る方針で、株転のプロセスが進んでいくに従い、生保業界の再編観測が高まるのは必至だ。保険契約者約850万人の巨大生保だけに、上場時の株式時価総額はNTTを上回る最大3兆円程度と見込まれ、第一は巨額の資金調達で敵対的買収も可能になるからだ。
生保業界では第一と同様にみずほフィナンシャルグループと親密な中堅生保、富国生命や朝日生命の第一グループ入りが取りざたされているほか、上場生保のT&Dに対するTOB(株式公開買い付け)だって理論的にはあり得る。また、提携関係にある損保ジャパンも再編候補にあがっているほか、保険商品の窓口販売で今夏、資本・業務提携した実質国有化にあるりそなホールディングスに対して、第一が更なる提携強化に乗り出すかどうかも感心を集めている。
一方、日生など相互会社を維持する国内大手3社には、第一が株転の最大の根拠として突きつけた命題もやっかいな問題だ。第一の斎藤勝利社長は2007年12月下旬に行ったメディア各社のインタビューで株転を決断した理由について「アジアなど海外での事業展開を進めようとしても、相互会社のままでは日本の契約者からいただいた保険料収入で投資を賄うことになるが、よくよく考えればこれはおかしなこと」と指摘した。保険の理念から言えば、本来、契約者還元に回すべきカネを契約者の利益とは離れた新規事業に使うのは理解が得られないのではないかとの問題提起。新規事業などには、上場して投資家から集めたリスクマネーを充てることが本筋ではないかというわけだ。
無用な事業や失敗事業のリストラ求める圧力が高まる
翻って、他の大手生保はどうか。例えば、日生が展開する損保事業のニッセイ同和損保は旧大蔵省の生損保相互参入解禁に沿って、東京海上日動火災保険の生保参入に対抗して作られたが、日生の生命保険契約者からすれば何の利益にもならない存在だ。日生側は独自の損保商品の提供で契約者の利便性が増すというのだろうが、外資系も含めて損保会社が多数ある中、「生保の損保商品を買えてうれしい」という人が日生の契約者に果たしてどれだけいるだろうか。ニッセイ同和の業績が伸び悩んでいることもあり、日生の生命保険契約者からすれば、「経営不振の損保事業に回すカネがあれば、生保契約者の配当に回して欲しい」というのが本音。中国など海外事業の展開もしかりで、「日本の契約者から預かった保険料やその運用で得た利益を契約者に直接的なメリットがない事業多角化に回すことには矛盾があるのは事実」(大手生保幹部)。
これまで見過ごされがちだった問題だが、第一の株転はその「パンドラの箱」を開けたとも言える。このため、今後、日生など他の国内大手生保に対して、契約者から無用な事業や成功していない事業のリストラを求める圧力が高まることも予想され、波紋が広がっている。