インターネット上の誹謗中傷にどう対処するか、政府やメディア、ブログなどで論議が高まっている。発言はどこまで許されるのか、匿名だから誹謗中傷が氾濫するのか。こうした疑問について、ITジャーナリストや弁護士らの論客に話を聞いた。3回にわたって特集する。
ネットの問題は、プライベートとパブリックのあいまい
ネットノイズについて語る佐々木俊尚氏
――評論家の池内ひろ美さん「殺害予告」事件で、被告の会社員男性(45)に厳しい有罪判決が下されました。2ちゃんねるへの書き込みは、被告が主張した「ネット掲示板の常識」に当たらないと断じた裁判官の裁定をどう思いますか。
佐々木 あの事件は、(被告が)捕まってしかるべきでしょう、と言うしかありません。書き込みは、法律の範囲内で許されるという線引きが、メディアと異なることがないということです。ネットでの問題は、プライベートとパブリックの境界があいまいになることにあります。例えば、居酒屋で同僚に「あいつを殺してやる」と言っただけでは、犯罪になりません。同僚とのプライベートな世界ですからね。しかし、ネット上では、プライベートと思っていることがパブリックになってしまいます。それが副作用を生んでいるのです。
――それは具体的にはどういうことか、説明して下さい。
佐々木 仲間内でしゃべっていたい彼にとっては、2ちゃんねるはプライベートな空間です。反応を返してくるのは身内、クローズなサークルの内部と感じているわけです。その外に巨大なサイレントマジョリティーがいる、境界線がある、のに気づかない。ある意味で、テントの中で大騒ぎして、ほかのテントのキャンパーに怒られる状況と同じです。こんな人はいっぱいいるでしょうが、それがパブリックになるのが問題なんですね。ケンタッキーの店舗でゴキブリを揚げたとミクシィの日記に告白して騒ぎになったアルバイトの高校生も、友だち付き合いの範囲内で話したという感覚しかないと思います。
――だから、誹謗中傷が氾濫するんですね。
佐々木 ネットだから誹謗中傷している人が多いということはありません。2ちゃんねるでも、それはものすごく少数です。表現の仕方がきついものの、正当な批判が多い気がします。池内さんのケースも、もともと批判される原因があったと思いますよ。突出した人が1万人に1人いるからといって、残りも頭がおかしいとは言えない。それを言うのは、目黒に人殺しがいるから、目黒はダメというのに等しいです。