カナダ・ボンバルディア社製のプロペラ機に世界各地で事故やトラブルが相次いでいる。北欧の航空会社は、同社の飛行機を今後一切使用しないことを決断、その影響で多額の損失を計上した。2007年3月、高知龍馬空港で全日空機の胴体着陸事故が起きたが、全日空(ANA)は、地元の反発にもかかわらず事故機の「現場復帰」を望んでいる。本当に大丈夫か。
胴体着陸後も国内で14件もトラブル
DHC8-400型機以外のボンバル機にも疑惑の目を向けられかねない(写真はCRJ-200型機)
2007年3月13日朝、車輪が出なくなった全日空1603便(DHC8-400型機)は目的地の高知空港上級を旋回した末、胴体着陸を敢行。幸いにも乗客56人と乗員4人にけがはなかった。
06年4月には、国土交通省の担当者が、ボンバルディア社が本拠地を置くカナダを訪問、航空当局や同社に改善を求めていた矢先の事故だった。
事故調査委員会では、そもそも製造段階で、同社が前脚ドア部分のボルトを入れ損ねたことが事故の原因、との見方を強めており、「ケアレスミス」だった可能性が濃厚になりつつある。
DHC8-400型機は00年にデビュー。国内では、日本航空(JAL)グループが03年2月に初めて導入し、現在ではJALグループとANAグループあわせて24機が使用されている。国内の航空業界では、地方路線の収益改善のために機材の小型化を進めていることを背景に、導入が進んでいる。特に、ジェット機に比べて燃費が良いターボプロップ(プロペラ)機の分野では、ボンバルディア社の独占状態だ。
ボンバルディア社側は、成田空港に部品調達拠点を開設するなどしてサポート体制を強化、トッド・ヤング副社長も07年11月に来日し「事故後に製造プロセスを見直した」などと述べ、火消しに懸命だ。
しかし、高知空港での事故後も国内だけで14件も同機をめぐるトラブルが報じられて、世界的にも同社に疑問が噴出している。そうした中で、ヤング氏も詳しい事故原因や同社の責任については言及を避けている。とても顧客の信頼を得られたとは言えない状態だ。
全日空は同機の「当面の路線復帰」を撤回
実際、全日空が12月19日に「事故機を08年元旦始発から高知-大阪(伊丹)便から復帰させる」との方針を明らかにした際には、事故現場の「地元」である高知県は猛反発。
尾﨑県知事が「原因究明が十分に行われないうちの路線復帰は県民感情を逆なでし、強い憤りを覚える」と述べたほか、県議会からも反対の声が続出した。
結局12月21日になって、全日空側は知事に対して当面の路線復帰の撤回を伝えた。
全日空は「あくまで復帰」の方針を貫いているが、対照的なのが北欧のスカンジナビア航空(SAS)だ。同社が運航するDHC8-400型機が、9月9日にデンマークで、直後の12日には、リトアニアで主脚が折れて胴体着陸するという事故を相次いで起こしたのだ。
これを受けてSASは10月28日には、
「DHC8-400型機への信頼は著しく失われ、お客様も、この機種に搭乗することに対して急速に懐疑的になっている」
「品質に関連した問題が繰り返し発生した」
などとして、DHC8-400型機を「今後一切使用しない」ことを表明、北欧路線で活躍していた全27機を退役させることになった。同社が輸送する乗客のうち、はDHC8-400型機の乗客は約5%を占めていることもあり、SASでは数百便の欠航を余儀なくされた。
やはり、この代償はそれなりに大きく、07年11月に明らかにした第3四半期の税引前利益は5億3600万クローネ(約92億円)。前年同期は7億8500.万クローネだったことからすると、実に3割以上の利益を「ボンバルディア問題」が吹き飛ばした形だ。この数字は四半期でのものなので、年間単位では実に6億~7億クローネを、この問題で失う形になる。
SASではボンバルディア社と協議を進め、損害賠償を求める方向だという。
また、日本では、ボンバルディア社の「CRJ-200型機」が07年12月20日にフラップに不具合を起こし、目的地を山形空港から仙台空港に変更する、というトラブルが起こったばかりだ。この機種のトラブルは多くないものの、DHC8-400型機のトラブルの原因が解明されない限り、「ボンバルディア」という名前だけで、疑惑の目を向けられかねない情勢だ。