上場企業の株式保有残高が増加している。野村証券金融経済研究所の調査によると、07年9月末の株式保有残高(取得原価ベース)は3月末比3.4%増に上るという。最大の要因は、企業同士の株式持ち合いの増加とみられるが、そうした企業の姿勢にはさまざまな問題が伴っている。
ブルドックの買収防衛策めぐる司法判断が関係
株の持ち合いが増えている(写真はイメージ)
同研究所が02年3月末から継続してデータを入手できる3月期決算企業1379社を調べたところ、07年9月末の株式保有残高は、3月末より1400億円増加し、4兆2200億円に上ったという。半期ベースでは04年9月末以降、7半期連続で増加しており、04年3月末の2兆9300億円と比べ4割強も増加している計算だ。
株式保有が増えている主な要因は、敵対的買収に対する企業の懸念が高まるなかで、企業が安定株主作りを狙い、企業同士で株式持ち合いを増加させているためとされる。特に、世界的な再編の波にさらされ、買収防衛の機運が高まっている鉄鋼セクターなどでは株式保有の増加が目立つという。
安定株主作りを目指した持ち合いが増えているのには、「ブルドックソースの買収防衛策をめぐる司法判断が関係している」との声も強い。ブルドックの防衛策は、敵対的買収の動きが具体的に生じ、実際に買収者が現れてから導入した「有事導入」だ。一般的には、有事導入は避けるべきだとされているが、ブルドックの買収防衛策差し止めを求めた米系投資ファンドのスティール・パートナーズの仮処分申請について、最高裁は2007年8月、スティールの抗告を棄却する決定を出した。最高裁の判断は、防衛策がブルドックの株主総会で8割以上の賛成を得たことを重くみたためとされている。
投資資金が他の国々に向かう心配も
買収防衛策では「多数の株主の意思」が重視されるという司法判断により、企業は自分の見方となる多数の株主を確保する必要がある、と判断したことが、株式持ち合いが増えている背景にあるというのだ。バブル期以降、企業は持ち合い解消の動きを進めてきたが、ここに来て再び、非効率な持ち合いが復活するなら、市場や経済に与える悪影響は避けられない。国際的なM&A(企業の合併・買収)が進む中、「日本市場だけが敬遠され、投資資金が他の国々に飛んでいってしまうかもしれない」(市場関係者)と声もある。
一方、米国の低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)の焦げ付き問題を機に8月以降、株価は急落している。企業は保有株の含み益が減少したり、悪ければ含み損を抱えてしまう可能性がある局面でも、株式取得を継続していることになる。買収防衛を極端に重視した結果、経営に悪影響を及ぼすことになれば、株主を裏切る行為にもなりかねない。