インターネットバンキングによる犯罪被害が増えている。金融庁は2007年12月6日、偽造キャッシュカードなどによる被害発生等の状況についての調査結果を発表した。07年4~9月末に発生したネットバンキング犯罪は137件。平均被害額は112万円だった。なかには数千万円を騙し取られた例もある。06年2月に施行された預貯金者保護法は偽造キャッシュカードの被害者には金融機関に補償を義務付けているが、ネットバンキングはこの対象から外している。どうしてネットバンキングは補償してくれないのか。
インターネットバンキングは預貯金者保護法の対象外
ネットバンキングでの詐欺が増えている(写真はイメージ)
本人の知らないあいだに預金が勝手に引き出された偽造キャッシュカード問題。被害が急増して社会問題になったことを受けて、2006年2月10日に施行されたのが「預貯金者保護法」だ。本人に落ち度がないのにキャッシュカードが偽造されたり、盗まれたりして預金を引き出された場合、その金額を金融機関側が補償する。
インターネットバンキングが預貯金者保護法の対象外になった理由を、金融庁はこう説明する。
「当時は偽造カード問題が社会問題化して、緊急を要していました。そのなかで、パソコンなどの端末が金融機関の管理下にないことや、ネットショッピングの利用者保護との整合性の観点から、議論が折り合わず見送られました」
ただ、こうした経緯もあって、ネットバンキングの「補償」問題はいまだにくすぶっている。
偽造キャッシュカードの場合、犯罪の被害件数でみると05年度の912件、平均被害額では03年の312万円がピーク。以降、年々減少して07年度(9月末まで)の被害件数は247件、平均被害額で47万円まで減った。9月末までの被害のうち、処理の方針が決まっている196件中、金融機関が補償した件数は192件。98%が補償されている。補償されない4件(2.0%)の理由は、預金者からの請求取り下げや、預金者に重大な過失があったためだった。
「○×銀行です。新しいサービスに移行するため、ご登録いただいている内容の再入力をお願いいたします」――こんなメールが届いたら、要注意だ。ネットバンキングの犯罪被害の主なケースは、こうした実在する金融機関を装ってメールを送りつけ、そこにホンモノそっくりなサイトをリンクさせて呼び込み、暗証番号やパワードなどを入力させて盗み出すフィッシング詐欺だ。
「犯人の指定した口座から(犯人を)割り出そうとしても、売買された口座だったり、なかなか特定できないようです」(ジャパンネット銀行)と、盗られたお金はまず戻らない。 ネットバンキングの犯罪被害は、2005年の件数が49件で平均被害額は214万円だったが、07年4~9月末は137件、112万円だった。平均被害額は約半分だが、被害件数は3倍近くにまで広がっていて、増える傾向にある。
ネットバンキングも独自の「保険」に入っている
被害にあっても法的な担保がないインターネットバンキングだが、金融庁の資料によると、ネットバンキングでも約90%が「補償」している。メガバンクの関係者は、「ネットの利用率を上げていくには、安心して使ってもらうことが大事」とし、インターネット専業のジャパンネット銀行も、「たしかに法律では求められていませんが、独自に保険に加入して補償するようにしています」というから、利用者はひと安心。ちなみに、この1年間にジャパンネット銀行が保険を適用するような被害はない。
では、補償が受けられないケースとは、どんなときなのか。まず、被害者が警察に被害届を出していないとき。「被害届の提出」が大前提で、その後の被害状況の調査を経て補償の有無が決められる。ネットバンキングに限らないが、本人の知らないうちに配偶者や親族がお金を引き出していたりすることもあって、被害届を出した後に、事が判明し請求を取り下げるケースは案外多い。
そして、「預金者に重大な過失があったとき」。なんだか曖昧だが、基本的な考え方はキャッシュカードの暗証番号に、電話番号など第三者にすぐにわかってしまう番号が使われているのと同じように、「盗んだパソコンを開いたら、テキストメモにパスワードやクレジットカードの番号があった、というケースは(補償が)認められないでしょうね」(金融庁)という。