メガバンクや証券大手が続々アジアへ進出している。野村ホールディングス(HD)の古賀信行社長は12月3日の個人投資家向け広報(IR)説明会などで今後の海外戦略にふれ、「アジアへの投資を拡大する」と述べた。証券会社に限らず、アジアに拠点を構える金融機関は増えている。製造業など、収益を上げている企業の多くが国内市場の落ち込みを海外でカバーしていて、大手金融機関もそれに倣えというわけらしい。
野村、米国やめてアジア・シフト
メガバンクの海外進出が相次いでいる
大手金融機関の動きは急だ。三井住友銀行は2007年11月27日、9月のインドのインフラストラクチャー金融公社に続いて、ベトナムの大手民間銀行のベトナム輸出銀行との資本・業務提携に調印したと発表した。
野村ホールディングス傘下の米国野村證券は07年12月3日、米国債の入札に参加できる代わりに一定の引き受けを義務付けられるプライマリーディーラーの資格を11月末に返上したことを明らかにした。野村HDは、1~9月期にサブプライム関連で約1500億円を損失。それを受けて、住宅ローン担保証券(RMBS)事業から完全撤退することを明らかにしていた。プライマリーディーラーも辞めて、アジア・シフトを強める。
米ニューヨーク証券取引所に上場して1年が過ぎた、みずほフィナンシャルグループは、傘下のみずほコーポレート銀行が07年10月にマレーシア最大手の銀行マラヤンバンキングベルハッド(メイバンク)と売掛債権の買取業務で提携。中国では現地法人が青島支店を08年4月に開設。さらには中国輸出入銀行や中信銀行と業務提携し、中国へ進出する日本企業の事業展開をサポートしていく。「(中国は)成長も見込め、最重要地域です」としている。
三菱UFJフィナンシャル・グループもグループの消費者金融のアコムと三菱東京UFJ銀行が共同でインドネシアのヌサンタラ・バラシャンガン銀行を買収。07年度中に株式の取得を完了する予定。マレーシアの総合金融グループCIMBとは、三菱東京UFJ銀行が資本出資している。また、三菱UFJ証券がシンガポール証券大手のKim Eng Holdingsと業務提携を結び、「アジアの証券市場でメジャープレーヤーをめざす」とし、アジアでの存在感を強めている。
海外進出企業サポートのためにも海外展開を積極化
その一方で、サブプライム住宅ローンの焦げ付き問題をきっかけに欧米の金融機関が疲弊している。米国ではサブプライム関連の損失が1000億ドル(12兆2000億円)に上るともいわれ、メリルリンチやシティグループ、さらにはモルガン・スタンレーまでも経営トップが引責辞任を余儀なくされているなかで、日本の金融機関は三菱UFJフィナンシャルグループなどの大手銀行6グループの損失で約1000億円。信用金庫等まで含めても1兆3300億円(9月末)と、米国と比べていたって軽微で経営陣のクビが飛ぶほどではない。
ある証券系のアナリストは「邦銀は運がよかっただけ」と話す。この十数年来、日本の金融機関は不良債権処理のために海外業務から撤退、あるいは縮小していて、海外で仕事をしたくてもできなかったといっていい。サブプライム問題についても、「米国でちょっと積極的になった野村や、みずほがやられた。バブルの痛手で(米国進出が)出遅れていなかったら、もっとやられていただろう」という。
いまの日本経済を「支えている」のは、トヨタ自動車を筆頭に海外で稼ぐ企業だ。中国やインドもまだまだ資金需要は国内より旺盛で、メガバンクは「海外に進出する企業をサポートする意味からも、海外展開を積極化にする」(みずほCB)と、現地での日本企業の活動支援や現地企業の資金調達などを見込んでいる。サブプライム問題で欧米の金融機関が弱っているうちに、アジアの新興国での営業基盤を確かなものにしておきたいわけだ。